暑すぎる今年の夏は、冷房が効いた部屋の中で読書でもしながら過ごしてみては? 夏に読みたい新刊4冊を紹介します。
『旧友再会』
重松清/講談社文庫/858円
零細タクシー会社を経営する53才の青田が乗務中に、敬遠していたイケイケの元同級生と再会する表題作。さびれゆく商店街で代々の家具店を営む55才の伊藤が、息子の打ち込む野球を通じ、中学時代に野球仲間だった松井や小林と再び交流を持つ中編「どしゃぶり」など計5編。老いのとば口に立ち、戸惑い覚悟する50代男に、著者自身が直面した真情がたっぷり投影されている。
『ペガサスの記憶』
桐島洋子、かれん、ノエル、ローランド/小学館/1980円
めちゃくちゃ面白い桐島家の叙事詩。裕福な子供時代、家が没落した戦後、親友の父(作家の永井龍男)に文才を認められて文藝春秋の編集者に。よく遊び、よく仕事して親にも内緒で最初の未婚出産。次の妊娠で退職して世界旅行へ。やることなすこと規格外過ぎて笑ってしまう。が、子供達にはそれなりの葛藤が。病をえた母の未完の原稿を、3姉弟が書き継ぐ。スカッと爽快!
『信仰』
村田沙耶香/文藝春秋/1320円
「俺と新しくカルトを始めない?」と同級生に誘われた永岡ミキ。化粧品もブランド品も遊園地も結婚式場もぼったくりだと超現実主義でやってきたミキは、妹に「お姉ちゃんの『現実』」も「ほとんどカルトだ」と言われたことを思い出す。相対化されたカルト……。ミキはカルト(マルチ商法)に自ら飛び込む。著者ならではの破壊的展開にシビれる表題作ほか、深い悔恨エッセイも。
『本を読んだら散歩に行こう』
村井理子/集英社/1650円
自分の中から湧き出る読書案内は(文学評論系と違って)読む者に優しく沁みいる。実家がサンドイッチの美味しい喫茶店だったこと、食の好みが違う双子男児の弁当作りをする母であること、父母や兄の死、47才で心臓病の手術をして世界が変わったことなど、著者自身とも深く知り合う。最近はオーディオブックにも開眼。スイーツ本から育児本までジャンルの多彩さも魅力。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年7月28日号