「最後に抱っこをしたい」──そう思っても、死産児は小さくて脆いため、それすらままならなかった。しかし、少しでも母親の気持ちに寄り添いたい。わが子との出会い、そして最後の別れを特別なものにするためにその女性は“天使のような産着”を作った。悲しみのなかに一筋の光を見出せるようにと願いを込めて。
佐賀大学医学部附属病院(佐賀大病院)では、死産の赤ちゃん専用のドレス「エンジェルドレス」が用意されている。考案、開発したのは、看護師の山本智恵子さん(44才)だ。このエンジェルドレスについて、ノンフィクションライターの山川徹氏が綴る。【全4回の第3回。第1回から読む】
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エンジェルドレスが完成して間もない2017年秋。山本さんのもとに、佐賀大病院から報告がきた。
「今日初めてエンジェルドレスを着て、赤ちゃんが旅立ちました。本当にありがとうね」
20代の若い母親が、エンジェルドレスを着たわが子を涙を流しながら、一日中抱いていたという。
「お母さんの癒しになったと聞き、ホッとしました」
そう語った山本さんは、一方で複雑な心境を口にした。
「単純に喜べなかったと言えばいいか……。最善は尽くしましたが、エンジェルドレスを使わないですむなら、それに越したことはないわけですから」
葛藤を抱えるのは、山本さんだけではない。縫い子たちは、エンジェルドレスを通して、子供を亡くした母親の悲しみと向き合っていた。
東靖恵さん(49才)は山本さんが立ち上げた、障害者用の衣服制作を手掛ける一般社団法人「ReFLEL」のスタッフとして働き、2年半が経つ。
「障害を持つ人の服作りはとてもやりがいを感じるんです。自分が服を作ったことで、ご本人や親御さんに喜んでもらえる。それがうれしくて」
東さんは、エンジェルドレスという言葉を初めて耳にして「キラキラしててかわいいな」という印象を抱いた。
「恥ずかしながら、それまで死産したお母さんについて、考えたこともなくって……。私もひとりの母親として、わが子を抱きたいという気持ちは痛いほどわかります。
私には、想像するしかないのですが、お母さんやご家族は悲しみのさなかにいる。そんなご家族にとって、赤ちゃんをただのガーゼで包むのとエンジェルドレスを着せてあげられるのでは気持ちが違うのではないでしょうか。障害を持つ利用者のかたと違って、エンジェルドレスを着るのは一度だけ。たった一度だけ着る特別な服だからこそ、より丁寧に作らなければと感じています」(東さん)