「最後に抱っこをしたい」──そう思っても、死産児は小さくて脆いため、それすらままならなかった。しかし、少しでも母親の気持ちに寄り添いたい。わが子との出会い、そして最後の別れを特別なものにするためにその女性は“天使のような産着”を作った。悲しみのなかに一筋の光を見出せるようにと願いを込めて。
佐賀大学医学部附属病院(佐賀大病院)では、死産の赤ちゃん専用のドレス「エンジェルドレス」が用意されている。考案、開発したのは、看護師の山本智恵子さん(44才)だ。このエンジェルドレスについて、ノンフィクションライターの山川徹氏が綴る。【全4回の第4回。第1回から読む】
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「たとえ死産だったとしても、お母さんがこの子に会えてよかったと思えるようなケアをしなければ、という意識をずっと持っていました」
佐賀大病院の助産師である渡辺直子さん(52才)は、エンジェルドレス開発を山本さんに依頼した経緯を説明した。もともと看護師だった渡辺さんが助産師として働きはじめた約20年前は、エンジェルドレスどころか、死産を経験した母親の精神的なケアという発想すらない時代だった。とはいえ、助産師たちは分娩室で、死産という現実を突きつけられる。
死産といっても、一人ひとりの背景や状況は違うという。母体にがんが見つかり、人工死産せざるをえずに強い自責の念を抱く母親、亡くなった胎児を自分のお腹にずっといさせてあげたいと懇願する母親……。渡辺さんは、そんな母親たちに寄り添ってきた。
「お腹の中で赤ちゃんが亡くなった若いお母さんには、外に出すのをもう少しだけ待ってほしいと何度もお願いされました。赤ちゃんの心臓が止まってしまったとわかっていたはずですが、受け入れられなかった。大切なわが子を、少しでも自分のお腹の中にいさせてあげたかったのかもしれません」(渡辺さん・以下同)
だが、母体の安全上、それはできない。処置が終わると母親は、声をあげて泣いた。十数年前の出来事である。エンジェルドレスは開発されていない。
渡辺さんは、赤ちゃんをきれいに清めて、柔らかい布に包んで母親の横に寝かせた。母親は、赤ちゃんの小さな手をずっと触り続けた。身体が冷たくなると、「赤ちゃん、寒くないかな」と心配した。
亡くなっていたとしても、かけがえのないわが子に変わりはない。死産の赤ちゃんに、生きているかのように接する母親たちの姿に渡辺さんたちは、切実な問題意識を抱く。お母さんが、死産の赤ちゃんをきちんとお見送りして、前向きに生きられるようにサポートを確立しなければ、と。