北朝鮮では今年4月の大規模な軍事パレードに参加したのち、新型コロナウイルスに感染して死亡した軍兵士に対して、特例として「戦死証明書」を授与していることが明らかになった。この戦死証明書は、これまで戦闘訓練中や、南北を隔てる非武装地帯で時折発生する韓国軍との小競り合いで死亡した場合など、兵士としての勇猛果敢さを称えるためのもので、授与されるのは極めてまれだという。
この証明書を受け取った遺族に対しては、食料の配給が増えたり、政府の仕事や党の役職に応募する際に特別に優遇されたりすることもあった。しかし、最近では北朝鮮の経済が停滞していることなどから、証明書の恩恵はほとんどないという。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
4月末のパレードには全国から10万人以上の軍人、兵士が参加、平壌にある軍事大学の学生も多数加わった。その直後から感染した兵士らは平壌の隔離施設で集中治療を受けたが、満足な治療薬もなく死亡した例も多く、彼らは直ちに平壌市郊外の大峰山火葬場で荼毘に付された。
北朝鮮政府は今年5月まで、2年間にわたり新型コロナウイルスの国内での感染を否定し続けてきたが、その後、軍事パレード参加者の間でウイルスの感染が拡がったことを認め、「死亡した兵士のために緊急的な対応をとる」を軍内で発表。家族に兵士らの遺骨を返す際に、名誉ある 「戦死証明書」が授与されることが決定されたという。
パレードの参加者は、厳密には戦闘で死亡したわけではないが、パレード中に軍票を携帯していたため、パレードは戦闘訓練とされ、死亡した兵士に戦死証明書が授与されることになったという。
ある市民はRFAに対して、「遺族は何も言えず、遺骨とともに証明書を受け取りながら涙を流し、『元気だった息子が軍事パレードのために死んだと思うと不憫でならない』などと憤慨している」と語っている。
本来ならば、戦死証明書を受け取った遺族には党政府機関などの就職や人事決定での優先権など多くの特典を与えられるはずだったが、最近では北朝鮮の極端な経済的困難と、ほとんどの人事が賄賂によって決定されるため、「証明書はただの紙切れになっている」とRFAは報じている。
死亡証明書を授与された兵士は少なくとも「数百人」と報じられている。