処方された薬をのみ切れない「薬ののみ残し」が大きな問題になっている。厚生労働省の調査によれば、5割以上の患者が薬をあまらせた経験があり、約9割の薬局でのみ残しがある患者を抱えていることがわかった。医薬品にも莫大な医療費が支出されており、国家財政の圧迫にもつながる社会問題だ。
その一方で、75才以上の患者の4分の1が、7種類以上もの薬を処方されている。浮かび上がってくるのは、“薬をやめたいのにやめられない”という現実だ。くどうちあき脳神経外科クリニック院長の工藤千秋さんが指摘する。
「本来ならば、薬を“増やす”のではなく、“減らす”のが治療です。きちんとした方法で医師と患者が互いに正しく努力すれば、必ず減薬は実現できます。にもかかわらず、多忙を理由に患者と向き合わず、診療のたびに薬の種類を増やす医師は少なくありません」
では、どんな病院にかかり、どう努力をすれば薬を減らすことが可能なのか──。便秘外来を開設する松生クリニック院長の松生恒夫さんのもとには、便秘薬を手放せなくなった患者が訪れる。
「1日に80錠のんでいる人はざらにいて、1回に150錠服用していたケースもあります」(松生さん・以下同)
特に注意すべきは、生薬の大黄やセンナなどの成分が腸を刺激し、便通を促すタイプの下剤だ。
「市販薬に多い、いわゆる“刺激性”の下剤は、常飲することで腸が刺激に慣れてくるため、次第に効き目が薄くなり、自然と服用量が増えていきます。自力で便を出そうとしなければ、腸や肛門括約筋も低下して、ますます便秘を悪化させるという悪循環に陥る。また、便秘がつづけば便がたまって腸内環境は悪化します。大腸にたまるガスが胃を圧迫して、胃や食道の働きも悪くなる。消化機能の低下にもつながります」
さらに恐ろしいのは、便秘薬の長期服用により、大腸そのものに異変が起きることだ。
「大黄やセンナなどの下剤を使いすぎると、大腸の粘膜にシミのようなものができ、機能が低下する『大腸メラノーシス』という症状が出ることがあります。以前勤務していた病院では、慢性便秘で大腸内視鏡検査を受けた人のうち、3.5%の腸がシミで黒ずんでいました。腸壁が変質した結果、大腸を動かす神経が集まっている部分を障害するので、大腸の働きがさらに悪くなります」
便秘そのものが引き起こすリスクも忘れてはならない。
「大腸がんはS状結腸や直腸に多くみられますが、これらは便がたまりやすい場所でもあり、長期間便がたまっていれば環境も悪くなる。つまり、便秘になっている期間が長いほど、大腸がんのリスクが高くなるということです。
また、毎日のように下剤をのめば、常に下痢をしているような状態であるため、脱水症状も起こりやすくなります。水分と一緒にカリウムなどのミネラルも体外に出てしまうので、長くつづけば低カリウム血症のリスクもある。動悸や不整脈、倦怠感、筋肉痛の症状が起きることもあります」