中国で北朝鮮労働者を雇っている企業や工場で、新型コロナウイルスの陽性者が出た場合、経営者はPCR検査や専門の施設への隔離などの費用を1人当たり1万元(約20万円)支払わなければならないことが分かった。北朝鮮と国境を接する遼寧省丹東市など中国東北部の都市には多くの北朝鮮労働者が出稼ぎに来ており、費用の捻出に頭を痛めているが、ある経営者は「赤字になっても労働者を北朝鮮に帰すわけにもいかず、破産覚悟で雇い続けなければならない」と困惑気味に語っているという。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
人口約230万人の丹東市では、鴨緑江対岸の北朝鮮で感染が拡大した影響で、鉄道は3月から、航空便は4月からそれぞれ運航が停止。4月下旬からは市内でも断続的に数人から数十人程度の感染者が出たことで商店などを閉鎖、学校もネットで授業を行うなどの措置を取っており、これまで3か月も事実上のロックダウン(都市封鎖)が続いている。
5月には丹東市内の企業で働いていた20人の北朝鮮労働者に感染の症状が出たため検疫措置がとられたが、病院に空きがなく、感染者は会社の寮に隔離されたという。
また、300人の北朝鮮労働者を雇っている衣料工場はもともと衣類を生産していたが、新型コロナウイルスの防護服の生産に切り替えたという。「北朝鮮人労働者300人は(自分たちが作った)防護服を着て仕事をしたが、それでも自分たちの感染を防ぐことはできなかった」と工場関係者は明らかにしているという。
丹東市内には約3万人の北朝鮮労働者がいるとみられ、中国政府は外国人の検疫費用を1人当たり1万元と決めている。会社経営者は検疫費用だけで大きな負債を抱えることになる。
また遼寧省ばかりでなく、吉林省や黒竜江省でも北朝鮮労働者を多数雇っている企業があり、経営者は対応に追われている。
北朝鮮の労働力輸出は、国連の対北朝鮮制裁で海外での就労ビザの発行が凍結され、2019年末までに海外で働く北朝鮮人の送還が義務付けられたため、海外で働く北朝鮮労働者はいないはずだが、米国務省は「北朝鮮政府は制裁を回避するために、中国やロシアに短期の就学ビザや訪問者ビザで労働者を派遣している」との報告書を発表している。