政治家、芸人、役者、テレビマン……輝かしい人生を駆け抜けた男たちの命の灯火が消えるとき、かたわらで手を握っていた妻たち。夫へ送る最後のメッセージから、それまで人生を共に歩んだ夫婦の関係が浮かび上がる。
「まだ夢の中にいるようです」
葬儀の場で安倍昭恵さんは声を震わせながら、突然の夫の死を受け入れられない心情をそう語った。天真爛漫な笑顔が印象深い昭恵さんが悲しみに暮れて送ったメッセージに、多くの人が涙を誘われた。本来、別れの場での妻の言葉は、参列者に向けた「挨拶」だ。しかし、そのメッセージには、多分に故人への「弔い」の気持ちがにじむ。最愛の夫に先立たれた妻は、最後の別れのときに何を語ったのか──。
●安倍昭恵さん(60才) 安倍晋三さん(享年67)
「本人なりの春夏秋冬を過ごして、最後、冬を迎えた。種をいっぱいまいているので、それが芽吹くことでしょう」
誰もが予期しなかった凶弾による突然の死。政治家として日本の未来を長い目で見据えてきた夫の奮闘を知っているからこそ、昭恵さんは別れのときも未来への希望を口にした。
「主人のおかげでいろいろなことを経験できた。すごく感謝しています。いつも私のことを守ってくれました」
かつて「家庭の幸福は、妻への降伏」と笑って話した安倍氏だが、昭恵さんのこの言葉からは深い信頼で結ばれた夫婦関係がうかがえる。
「政治家としてやり残したことは、たくさんあったと思うが、種をいっぱいまいているので、それが芽吹くことでしょう」
かけがえのない存在を失った昭恵さんの顔にはいつもの笑顔は見られないものの、前向きな言葉で締めくくった。
●広川ひかる(51才) 上島竜兵さん(享年61)
「寅さん死んじゃって……あ、寅さんじゃない竜ちゃんだ(笑い)」
喪主の挨拶で「夫はフーテンの寅さんが好きだった」という話をした際、思わず言い間違えて参列者の笑いを誘った広川。“恐妻”として知られ、ことあるごとに上島さんの腹を割り箸で刺したというエピソードがテレビ番組で取り上げられ、笑いのネタとされる“芸人の妻”の宿命を背負った。葬儀に駆けつけたのは、かつて上島さんを囲んで酒を飲んだなじみの顔ばかり。
「これからもずっと竜ちゃんを忘れないでください。どうぞたくさん笑って、思い出話をしてほしいです」
忘れることなどできないと誰もがうなずいた。