気がつけば数多の作品に登場していた木訥(ぼくとつ)とした風貌の中年男。一癖も二癖もある役を演じてきた怪優が今、NHK大河ドラマで中心人物を担っている。佐藤二朗(53)とは、一体何者なのか──。【全4回の第1回】
人間臭くて憎めない
新章がスタートしたNHK大河『鎌倉殿の13人』で、北条家最大のライバルである比企一族の当主・比企能員を演じる佐藤二朗。
千葉常胤役の岡本信人はその演技に舌を巻いたという。
「常胤は13人には名を連ねていませんが、そもそも権力争いに興味がなく、自分の所領を守り、一族に繁栄をもたらすために忠義を尽くす真っ直ぐな武士。一方、佐藤さん演じる比企能員は坂東武者の中でも常胤たちとは一線を画す存在で、権力を手にするためあの手この手と狡猾に立ち回る。
ズルいヤツなのに、佐藤さんが演じると、裏で見せる本音の顔も人間臭くて憎めない男に見えてくる。上総広常(佐藤浩市)に『こいつがぁ?』と言われて、『その言い方は、またなんと』と上手く受け流す台詞の言い方もまた比企らしくて面白かった。
佐藤さんは役に自分を近づけるのではなく、役を自分に引き寄せるタイプ。それでいて、その役の本質を損なわない。これは相当な力量がないとできないことで、本当にすごいと思います」
一度見たら忘れられない独特の風貌とクセの強い演技。彼はいかにして名バイプレイヤーから、大河の主軸を担うまでになったのか──。
佐藤は愛知県春日井市出身で、小学生の頃から俳優志望だったという。
信州大学卒業後、リクルートに就職したが、たった1日で退社。2つの俳優養成所に通うものの劇団員にはなれず、2年後に広告会社に再就職し、サラリーマン生活を送りながら、養成所時代の仲間と演劇ユニット『ちからわざ』を旗揚げし、俳優を目指した。
本人いわく「暗黒の20代」を過ごしていた彼を見出したのが、演出家の鈴木裕美氏だった。佐藤との出会いから20年以上親交のある鈴木氏が語る。
「1997年に30分くらいの短い舞台のオーディションで、彼を主人公に選んだのが始まりです。顔も手も足もものすごく大きくて、あのルックスはインパクトがありました(笑)。それに芝居が好き、演技をするのが好きというのが伝わってきて、達者な方だと思いました。私もそうですが、“演技マニア”なところはその頃も、今も変わっていません」