NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で中心人物を担っている佐藤二朗(53)。一癖も二癖もある役を演じる怪優として知られるが、俳優仲間や監督はその演技をどのように見ているのだろうか。【全4回の第3回。第1回から読む】
「この人は底が知れない」
佐藤と同じ信州大学出身で、同じくバイプレイヤーとして活躍する野間口徹は、佐藤についてこう語る。
「大学時代はちょうど入れ違いで、二朗さんを知ったのは僕も大学を卒業した後でした。2学年上の先輩から『佐藤って人も役者やってるよ』と聞いていて、たまたま連れて行かれた劇団『ちからわざ』の公演に二朗さんが出ていて、初めて顔と名前が一致したんです。
これを言うと二朗さんに“営業妨害だ”って言われますが、二朗さんの演技はアドリブっぽく見せて、全部緻密な計算をされていると思います」
なかでも野間口が感銘を受けたのが、『わたしたちの教科書』(2007年・フジテレビ系)での佐藤の演技だったという。ことなかれ主義で、死んだ女子生徒がいじめられていたことを知りながら、ずっと隠し続けていた中年教師(佐藤)。しかし、法廷で菅野美穂演じる弁護士に問い詰められ、ついに「いじめはあった」と告白する。物語が急転する重要な場面だ。
「《その瞬間から泣き始めるんだ、この人は底が知れない人だ》と二朗さんに長文のメールを送りました。役者に直接感想を伝えたのは、後にも先にもあの時だけです。
“そんな人いないよ”というようなキャラクターも、“いや、いるかも……”と思わせてくれるところがすごい。ご本人はつらいこと、苦しいことを笑いに変えてくれる素敵なお兄さん、いや、オジさんなんですけどね」(同前)
“超個性派”であり繊細な佐藤には、どの俳優も近づけない魅力があるというのだ。
堤幸彦監督もこう証言する。
「他の役者に『アドリブしてよ』と言っても、ちょっとしたわざとらしさを感じたり、“これはアドリブでしょうね”と読めるものになってしまう。ところが佐藤二朗に関しては、そもそもがアドリブなのか、台詞なのか、演出されたものなのか、自分で考えたものなのか。その境界線を曖昧にするところに彼の存在意義、個性がある。いわば佐藤二朗という“表現の塊”としか考えられません」
(第4回につづく)
※週刊ポスト2022年8月5・12日号