新型コロナがまん延するなか、売り上げが伸びたホストクラブもあったという。深夜の繁華街の主役は、かつての「夜王」ホストたちから、「ホス狂い」の女性たちに変わった。ネオンの下で繰り広げられる宴に、なぜ彼女たちは今日も通うのか。新書『ホス狂い』を上梓するノンフィクションライターの宇都宮直子氏がレポートする。
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「この人が私の“王子”です」
「ホス狂い」を自称する、ねねさん(仮名・25才)が新宿・歌舞伎町の老舗ホストクラブで紹介してくれたのは、店の売り上げ上位の人気ホスト、紫陽くん(仮名)だ。
彼は「ぼく、こう見えて結構年がいってるんですよ」と30代半ばであることを明かすが、女優の橋本環奈に似た女性的な顔立ちに、隙のない化粧を施す紫陽くんは、とてもその年齢には見えない。ねねさんは小さな顔をちょこんと彼の肩に乗せ、“王子”の前では恋する女の子に豹変する──。
「ホス狂い」とは文字通り、ホストに「狂う」女性たちのこと。夜な夜なホストクラブで大金を使う彼女たちは、どこか誇らしげに「ホス狂い」を自認する。
ネオンきらめく夜の街で、ドレスアップしてはしゃぐ彼女たちの姿は最近、世間の関心を集め、ドラマ『明日、私は誰かのカノジョ』(TBS系、2022年4月クール)の主人公のひとりとして描かれたり、ファッション雑誌『LARME』でコーディネートが特集されたりと、ムーブメントも巻き起こっている。彼女たちはなぜ、お金も時間も労力もすべてなげうって、ホストクラブに通うのか。
こんなときだからこそ本当の姫になれる
新型コロナの感染拡大は止まらず、「第7波」が到来したいま、発熱外来は診察を待つ人々であふれかえっている。だが、歌舞伎町のホストクラブは相変わらずの満員御礼。ねねさんも連日、紫陽くんの隣に座るために、せっせと店に“通勤”していると笑う。そんな街の様子は筆者が歌舞伎町で「ホス狂い」の女性たちに取材を始めた2020年春から変わっていない。
ワクチンもなく、新型コロナが未知のウイルスであった当時、特に感染者が多かった歌舞伎町はワイドショーなどで「感染拡大の温床」として繰り返し糾弾されていた。実際、2020年6月、歌舞伎町のホストクラブの従業員12人が新型コロナに集団感染した。だが、そんな中でも、店に通う女性たちは引きも切らなかった。マッサージ店で働きながら歌舞伎町に“連勤”するマユミさん(仮名・26才)はこう話す。