【著者インタビュー】柴門ふみさん/『薔薇村へようこそ(1)』/小学館/715円
【本の内容】
柴門さんが令和の「家族のかたち」を描いて話題となっている作品の単行本第1巻が7月29日に発売に。丸木倫太郎は「薔薇の郷別荘地」の管理事務所スタッフとして、別荘管理業務のほか、移住希望者に新築・中古の別荘を紹介している。そこは東京から2時間弱、「山麓の森の中でセカンドライフを」との惹句に誘われて、訳ありの人たちが集う。第1巻には、〈1年前までは平凡なサラリーマンだったんですがね〉と言う西山慶一(50才)が明かす深い事情を描いた「CASE1」と、大手商社に勤める夫の定年を機に、なぜか〈あたし一人よ。離婚するの〉と、一人での移住を考えて“娘”と訪れた貴島英子(58才)の喪失と再生までを描いた「CASE2」を収録している。
母たちの恋愛以上に夫婦にはドラマがある
母親たちの恋愛をリアルに描いた、柴門ふみさんの女性セブン連載『恋する母たち』は大きな話題になり、連続ドラマにもなった。その柴門さんの最新作『薔薇村へようこそ』(「ビッグコミックオリジナル」で連載中)は、家族のかたちがテーマになっている。
「『恋する母たち』を描いている途中で気づいたんです。母たちの恋愛以上にドラマがあるのは夫婦だな、って。婚外恋愛は、じつは割と単純なんです。がーっと盛り上がって、すっと醒める」(柴門さん・以下同)
『東京ラブストーリー』をはじめとする恋愛漫画を次々、大ヒットさせ、「恋愛の教祖」とも言われた柴門さん。その柴門さんが、当事者にとっては大事件である婚外恋愛は「単純」だと言うのだ。
「恋なんて性欲ですよ。だけど、夫婦っていうのは、性欲以外にもいろんな要素が組み合わさって、関係性もすごく複雑なんですよね。二人が出す答えも一つじゃない。はたから見れば、とっとと別れちゃえばいいのに、と思う夫婦がずっと別れなかったり、逆に、あんなに仲がよかったのに、という夫婦があっさり別れたり。ドラマとしても、すごく面白い。それから、『恋する母たち』の中でも母と息子のエピソードをいくつか描きましたけど、親子についてももう少し掘り下げてみたくなりました」
新作漫画の舞台になるのは、東京から車で2時間弱で行けるという設定の別荘地、薔薇村だ。管理事務所で働く丸木倫太郎という青年が、さまざまな事情を抱えた中高年の男女と出会い、管理人の心得は、「お客様には決して深入りしないこと」だと知りつつ、彼ら彼女らの人生の物語を、はからずも聞くことになる。倫太郎自身、東京生まれ東京育ちの元サラリーマンで、薔薇村に来るまでにはどうやら事情があるらしい。
定年後、あるいは早期退職して、地方への移住を考える人が増えている。長引くコロナ禍は、そうした傾向をさらに後押ししているようでもある。その点でも、タイムリーさを感じる舞台設定だ。
「地方への移住を選ぶ人、増えているみたいですね。どういうことなんだろうと興味を持っています。『薔薇村ってよさそうだな』って思ってもらえるといいけど、最初に私の頭にあったのはあくまで家族の物語で、舞台として地方都市を選んだということです。
最新回では、話の中に『火の見櫓』が出てきます。私自身、山梨県に山荘を持っていて、土地勘のあるそこが一応、『薔薇村』のモデルです。地方都市って昭和の価値観や風俗がまだ残っているんですよ。地方ならではのすばらしさも不便さもあって、都会の人間が移住したら、価値観の違いからもドラマが生まれるんじゃないか、と考えました。不便だからこそ、家族がいろんなできごとに出会うという設定が描きやすくなるんですよね」