夏の甲子園の49代表校が決まった裏では、多くの学校が地方大会で敗退した。昨秋の東海大会で準優勝しながら、春のセンバツ選考で東海地区代表「2枠」に入れなかった聖隷クリストファー(静岡)も、県大会準決勝で敗れた。だが、夏の静岡大会での戦いぶりは、「個人の能力」がなくても勝てることを証明するようなものだった。本誌・週刊ポストでセンバツ直前に選考委員や高野連会長の証言をスクープしたノンフィクションライターで『甲子園と令和の怪物』著者の柳川悠二氏が独占密着した。【全3回の第2回。第1回を読む】
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今春、選抜に落選した聖隷クリストファー高校の救済措置を求めるべく取材を続けた私は、夏を迎えて彼らに対する肩入れも人一倍強くなっていた。選抜に不選出となった際に指摘された「個々の能力の差」を覆そうと、チームの和の力で、勝ち上がっていく様は実に痛快だった。
公正・中立の報道の立場を忘れて、彼らのピンチには身体が震え、得点が入れば心の中で叫声をあげた。酷暑の中での熱い戦いを、冷房の効いた記者室で見ることはとてもできない。バックネット裏から彼らの一挙手一投足を追い、劣勢になるとついつい聖隷の応援席に移動して試合を見守った。
1回戦の相手は静岡市立。1回表に3点を先攻した聖隷だったが、その後は追加点が奪えない。序盤は相手の早打ちに助けられていた背番号「10」の今久留主倭も、終盤に入って疲労が顕著となり、6回に1失点、8回にも1失点して1点差に肉薄された。しかし、最終回は打者3人で切って取り、3-2で勝利。今久留主が8安打を浴びながらとにかく粘りぬいた。
そして、2回戦で聖隷の前に立ちはだかったのが春の静岡大会と東海大会の王者である第1シードの私立・浜松開誠館だ。聖隷は幸先良く4点をリードした。だが、開誠館も今久留主を5回にとらえ、4-4の同点に。上村敏正監督(65)は今久留主を諦め、公式戦初登板となる期待の1年生左腕・山内玄基をマウンドに送る。すると6回裏に不調の右翼手に代えて入っていた小出晴希が走者一掃のタイムリーを放ち、8-4と勝ち越しに成功。上村監督の早い決断と、交代した選手の活躍で、春の王者を10対5と圧倒した。
苦しい試合となったのが3回戦の浜松城北工戦だ。昨秋の東海大会における快進撃の立役者だった左翼手の左腕・塚原流星が先発し、2回につかまると、今久留主がリリーフとしてマウンドに上がった。しかし、グラウンド整備が入る5回を終えて、0対5と点差を広げられてしまう。
本当に、いろんなことが起こるチームです
劣勢から大逆転を引き起こしたのは、打撃不振の2年生に代わって4番一塁に入っていた主将の弓達寛之だった。6回裏に先頭打者として2塁打を放って反撃ののろしをあげると、8回には逆転の2点タイムリーを放ち、8対5と勝利した。
4回戦の袋井戦のプレイボール直前、ベンチの裏にいると、背番号「1」を見つけた。主将の弓達を激励しようと近寄ったが、どうも様子が違う。178センチの弓達にしては小柄なのだ。他にも新たにベンチ入りしている選手が数人いて、私は聖隷に何が起きているのかを察した。上村監督に一声かけると、こう返された。
「本当に、いろんなことが起こるチームです」