日本人の死亡原因でもっとも多い「がん」は、全体の27.6%を占め、およそ4人に1人はがんで亡くなっている(厚生労働省「人口動態統計(確定数)」2020年より)。しかしながら、「がん=不治の病」という認識はいま変わりつつある。
その鍵を握るのは「早期発見」。早く見つけることさえできれば、約9割が治るともいわれている。早期発見によって救える命があるかもしれない……。そのヒントは、なんと“犬の嗅覚”にあるという。いま研究が進んでいる「がん探知犬」の最新情報をキャッチした。
「このニオイを探すんだぞ。よし行け!」
トレーナーの佐藤悠二さんの掛け声で、真っ黒なラブラドールレトリバーのサラは、5つの箱の横を静かに歩く。箱の中には乳がん、肺がん、前立腺がん、直腸がん、腎臓がん、すべて異なるがん患者の呼気が1つずつ入っている。事前に注射器でサラに嗅がせたのは、がん探知犬が特定した乳がん特有と思われるニオイ物質。同じニオイが入った箱の前で足を止め、クンクンと箱の中身を嗅ぐ仕草を始めた。
「がんには特有のニオイがあって、がん探知犬はそのニオイを嗅ぎ分けることができます。最近は訓練の結果、がんの種類まで識別できるようになりました」(佐藤さん)。
その的中率はほぼ100%に近いという。
千葉県館山市にある『セント・シュガージャパン』では、「がん探知犬」の育成を2005年より行っている。現在は全国約40軒の病院と提携し、呼気を詰めたパックを送るだけで手軽にがん検診ができる『ドッグラボ』も展開中だ。人間ドックのように体への負担もなく、自宅から呼気を送るだけで検診できるとあって、コロナ禍で利用する人も多いという。
佐藤さんががん探知犬の育成を始めたのは、マリーンという水難救助犬との出会いがきっかけだ。
「マリーンはとても賢く、驚異的な嗅覚を持っていました。訓練を続けるうちに、水深20mにあるニオイまで嗅ぎ分けられるようになったんです。これをさらに生かせる方法はないかと考えたときに、愛犬が飼い主の皮膚がんを見つけたという海外の論文を読み、もしかしたら犬はがんのニオイを嗅ぎ分けられるかもしれないと思いました」(佐藤さん)
早速実験を開始すべく、がん患者の検体(呼気や尿)を提供してもらえないか100軒以上の病院に電話をしたが、協力してくれる医療機関は1軒もなかった。
「“犬がわかるなら医者はいらない”、“そんなバカなことはやめた方がいい”と、どこも門前払いでした」(佐藤さん)