1972年、『週刊マーガレット』(集英社)で、これまでにない少女漫画の連載が始まった。それが、18世紀のフランス革命を舞台に、王妃マリー・アントワネットと、男装の麗人オスカルの激動の人生を描いた『ベルサイユのばら』だ。作者は当時大学生だった池田理代子さん。「歴史を題材にした漫画は女性や子供にはウケない」という定説を破って空前のヒットを記録し、宝塚歌劇団による舞台化やアニメ化などがなされ、社会現象にまでなった。今年、この歴史的名作が連載開始50周年を迎えた。
少女漫画でありながら学校の図書室に収蔵
少女漫画の金字塔『ベルサイユのばら』は、1974年に宝塚歌劇団の60周年記念作品としてミュージカル化、1979年にはテレビアニメ化、その後も実写映画化、世界十数か国で翻訳されるなど、社会現象を巻き起こしていく。
ノンフィクション作家の沢木文さんは、小学3年生のときにこの作品に出合い、魅了された熱烈なファンのひとり。
「当時、漫画はまだ“低俗なもの”とされていて、私も教育熱心な親から読むのを禁止されていました。ところが1980年代に入り、『ベルサイユのばら』の愛蔵版が小学校の図書室に収蔵されたんです。ただの少女漫画にとどまらず、歴史作品として世間に認められた証だと思います。学校のお墨付きなら親の前でも堂々と読め、気づけば作品の魅力に引きずり込まれていました」(沢木さん・以下同)
沢木さんがこの作品に惹かれた理由の1つに、主人公オスカルの生きざまがあった。
「彼女は、池田理代子先生が創作したキャラクターで、女性でありながら軍人になるべく育てられ、命を懸けて己の信念を貫くのです。その自立した生きざまは、“女性の幸せは結婚して専業主婦になること”とされていた当時には型破りで、強烈に憧れました」
ジェンダーの問題をいち早く描き出した作品
マンガエッセイストの川原和子さんは、この作品の魅力について、池田さんの力量によるものと語る。
「池田先生は歴史考証をした上で、どこを生かして物語に組み込んでいくのか、取捨選択や構成が抜群にうまい。だから、歴史物語といってもお勉強っぽくなく、ドラマチックに仕上げて読者を引き付けられる。そして、先見性もあります。たとえば、セクハラ問題もそう。“セクシャル・ハラスメント”という言葉が新語・流行語大賞の金賞になったのは1989年ですが、池田先生はそれより16年も前に、オスカルが女性ゆえに職場でハラスメントを受ける場面を描いています」(川原さん・以下同)