不動産価格が高騰する中国で、習近平国家主席が「住宅は投機の対象ではなくて、住むためにある」と指摘したことを受け、中国の金融当局は投機目的の不動産売買を取り締まるため開発業者への融資規制を強めている。それにより業者の資金繰りが悪化し、マンションなどの建設工事がストップするケースが相次いでいる。さらに、購入者が住宅ローンの支払いを拒否し、デモ騒ぎなどが起きるなど混乱が広がっている。
政府は不動産セクターの債務危機を解決するために、総額3000億元(約6兆円)の救済基金を設立する予定だが、この基金ではまだ危機を解決するには不十分だとみられている。その一方で、当局はインターネット上の「支払い拒否」の書き込みを片っ端から削除するなどしているが、対応は後手に回っており、真の解決には程遠い状態だ。ブルームバーグ通信などが報じた。
中国では昨年来、当局が住宅価格の高騰を抑える狙いで開発業者への融資規制を強めたことで不動産市況は悪化の一途をたどり、恒大産業などの大手不動産会社のドル建て社債の実質的なデフォルト(債務不履行)状態に追い込まれた。
上海市のロックダウン(都市封鎖)など厳格な新型コロナウイルス対策に伴う景気の落ち込みも大きく影響し、不動産の販売は全国的に低迷した。
さらに、下請け業者への未払いや工事の一時停止も起きた結果、「物件が引き渡されないのではないか」との不安を抱いた購入者の一部がローンの支払いを停止。インターネット上では、「親類縁者から金を借りて、マンションを買ったのに建設工事が止まってしまって不安だ。ローンは支払わない」などとの声が多数書き込まれ、全国的にマンションなどの買い控えの動きが広がり、開発業者はさらに経営が悪化するという事態に陥っている。
このため、中国政府による総額3000億元の救済基金創設計画が近く正式に発表されるという。
しかし、今回の救済措置が中国全土の不動産業者を対象にしたものではなく、地方自治体が指名した大手不動産デベロッパー12社と問題がある不動産会社数社に対象を絞ったものであることが、問題視されている。
一部のアナリストがブルームバーグに明らかにしたところによると、この制度で救済される不動産開発会社12社の短期債務の総額は7420億元(約1兆5000億円)で、救済基金では不十分ではないかとの見方が出ている。さらに、今回問題になっている住宅購入者やサプライヤーに対する債務を含めると、総額で4兆元(約80兆円)にのぼるとみられ、実際には「焼け石に水」で、今後ますます混乱が拡大する可能性も指摘されている。習近平指導部は秋に共産党大会を控え事態の早期解決を図らなければならないところだが、難しい対応を迫られそうだ。