「私が人生をともにした20世紀の映画はどれも、多くの人が公開を心待ちにする名画ばかりだった。だけどいま、映画館に足を運ぶ人は減ってしまったし、ネットで早送りしながら映画を観る人すらいます。
デジタル端末の発達もものすごいスピードで進むこの時代に映画や字幕が現在のかたちのまま残るとは考えられない。これまで1500本以上の字幕に携わってきましたが、それでも10年先、映画をとりまく状況がどうなっているのかまったく予測できません。
1つ言えるのは、いまの状況は映画を作る側にも問題が少なからずあるということ。いま大ヒットしている『トップガン マーヴェリック』は、もともと2年前に公開する予定だったものがコロナの影響で“ほこりをかぶって”いたんです。この映画に出資した人のなかからはネットで公開することを求める声もありましたが、この映画は大画面の音響で観ないと真価がわからない。トムはそう主張し、劇場公開を勝ち取るために必死で闘いました」
その努力のかいあって、同作は歴史的なヒットを記録している。
「トム(クルーズ)のように頑張って、お客さんが足を運びたくなるような映画を作れば、みんなが観に来てくれる。多くのお客さんが映画館に戻ってきてくれたのは字幕を担当した私も本当にうれしかった。これまでの仕事に悔いはないし、通訳は引退するからたまにはのんびりしたいと思う半面、やっぱり字幕翻訳は楽しい仕事であることには変わりない。これからも携わっていきたいと思っています」
かつて戦後まもない日本でスクリーンを通して夢見た少女は、いまなお夢の中をさっそうと翔回っている。
(了。第1回から読む)
文/池田道大 取材/辻本幸路 撮影/田中智久
※女性セブン2022年8月18・25日号