日本の娯楽映画史にその名を刻む五社英雄監督が、没後30年を迎える。迫力ある殺陣や濃厚な濡れ場演出への並々ならぬ情念は広くファンを魅きつけた。実娘・五社巴さんが振り返る──。
映画監督・五社英雄は、圧倒的な映像美で映画界の度肝を抜いた。その生涯で残した映画は全部で24作。亡くなって30年が経過した今もなお、作品の持つ輝きは色褪せていない。
「今観ても、まったく古臭さを感じさせません。若い方にも楽しんでもらえるし、驚かれると思います」
巴さんはこう語る。3年ほど前に、まだDVD化されていない作品があることに気づき、全パッケージ化をはじめとした没後30年のプロジェクトを主導した。
「会社を退職する人が、『これから黒澤映画でもじっくり観るか』なんて言っているのを聞く度に悔しくて。いい作品あるから、五社英雄も観てよ!って(笑)」
何より映画を優先させた父の生き方を100%肯定はしない。そう前置きしながら、父への思いを語った。
「30年経って作品を見返してみると、常識では考えられないほどの仕事量です。父の年齢に近づくにつれ、その思いを理解できるようになりました。今回のプロジェクトで次の世代にも父の作品を伝えられたら嬉しいです。若いころはあまり父になつく娘ではなかったので、ようやく恩返しできたように思います」
※週刊ポスト2022年8月19・26日号