蒸し暑い環境で筋肉運動などを行ない、体温が上昇すると発汗や血液が皮膚表面に集まり、熱放散して体温を下げる働きをする。それでも体温が下がらず、水分やミネラルなどのバランスが崩れ、めまいや立ち眩み、全身倦怠感などの症状が起こるのが、今や国民病ともいえる熱中症だ。重症では意識障害や痙攣、肝臓や腎臓の機能障害、血液凝固障害などを発症し、命にかかわる。
人間は体温が37℃前後で代謝や酵素が最適に働く。そのため異常な体温上昇を抑える調節機能が備わっている。
例えば発汗後に汗が乾く時の気化熱で体温を下げたり、血液が体内の熱を運び、皮膚表面に集まり、放熱して体温を下げる。他にも血液は、あらゆる臓器に酸素と栄養を運び入れながら、同時に臓器から出る老廃物を持ち帰って腎臓や消化器から捨てる働きもする。これらを行なっても体温調節機能が破綻してしまい、体内の水分やナトリウムなどのバランスが崩れ、症状が出るのが熱中症だ。
体温が異常に高い状態が続くと、発汗による脱水と塩分不足で血液の流れが悪くなるため皮膚表面からの放熱もできなくなり、脳や心臓、腎臓、肝臓といった重要な臓器がダメージを被る。重症になると血液や中枢神経が障害され、意識障害、痙攣を発症。その結果、血液が固まらなくなる血液凝固障害や筋肉が大量に壊れる横紋筋融解症、急性腎障害など重篤な症状を引き起こし、命の危険が続く。
帝京大学医学部附属病院高度救命救急センターの三宅康史センター長に話を聞いた。
「熱中症の典型的な初期症状はめまいや立ち眩み、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、こむらがえりなどです。しかし、これらは他の病気でも起こります。先日、若い方が体調を崩して救急搬送されました。熱中症だと思ったのですが、念のためPCR検査をしたところ、陽性でした。熱中症は症状ではなく、暑い環境にいたか、暑い場所で肉体労働やスポーツをしていたかで判断することが重要となります」