去る8月9日、韓国・ソウル中央地裁で開かれた国家賠償訴訟の証人尋問で、「韓国軍によるベトナム戦時民間人虐殺事件」を当時、目撃したというベトナム人男性が証言台に立った。これまで、韓国政府が公式に認めず、“歴史のタブー”とされてきたベトナム戦争当時の事件に、新たな光が当てられようとしている。
ベトナム戦争中、南ベトナム(当時)の各地で80件余り発生し犠牲者は9000人以上ともいわれるこの問題。ベトナムを繰り返し訪れ、10年以上にわたり取材し続けるフォトジャーナリストの村山康文氏が言う。
「1968年にフォンニ村で事件に遭遇したグエン・ティ・タンさん(62歳)が原告となり、2020年4月、韓国政府を相手に裁判を起こしました。提訴内容は『民間人虐殺に責任がある韓国政府は3000万ウォン(約260万円)を賠償せよ』というもの。ベトナム人被害者による韓国での国家賠償訴訟はこれが初めてです。
8月9日の証人尋問は、タンさんのおじで、当時南ベトナム民兵隊に所属していたグエン・ドク・チョイさん(82歳)に対して行われました。報道によると、チョイさんは『無線機を通じて韓国軍人がフォンニ村の住民たちを殺害しているとの知らせを聞き、フォンニ村の近くに行った。望遠鏡で、韓国軍の軍人がフォンニ村の住民数十人を殺害する姿を目撃した』、『民間人を殺害した韓国軍が立ち去ったあと、米軍と共に村に入り、あちこちに積まれた遺体を発見した。多くの家屋が燃えている様子も見た』と証言したそうです」
ベトナムと韓国で事件に関する30人以上の証言を聞いた成果を1冊にまとめた村山氏の新著『韓国軍はベトナムで何をしたか』によると、タンさんが遭遇した「フォンニ村・フォンニャット村」事件では、韓国軍青龍部隊(海兵隊第二旅団)の作戦により、70人余りの村人が巻き込まれ殺害されたという。村山氏が続ける。
「タンさんは、事件発生時、兄、姉、弟、おば、おばの息子、兄の友人の7人で避難壕に身を潜めていたところを、韓国軍兵士に襲われました。避難壕から出るように手榴弾で脅され、外に出たところを次々に銃殺されたといいます。この場で助かったのは、タンさんと兄の2人のみ。別の場所でタンさんの母親も殺害され、タンさんは家族と親戚5人を一度に失いました」