政府が安倍晋三元首相の国葬を決定したことをめぐり、賛否の声があがっている。『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子は、どう捉えているのか──。
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「きれい。建物もトイレもみんなきれい」
「オレもそう思った。きれいでビックリした」
私の地元・茨城県から上京してきた小学6年生たちに国会議事堂内を案内するアルバイトを始めて足かけ4年。コロナ禍で見学募集を休止していたけれど、再開したこの春から、申し込んでくる小学校がぽつぽつと出てきたの。
先日案内したのは20名の小学生と、私より若い校長先生と30代の教務主任だ。議事堂を案内した後、帰るまでにまだ時間があったので、衆議院議員会館も案内して、最後に子供たちに感想を聞いたら、口々に「きれい」と言ったのよ。
そりゃあ、国の施設だから清掃会社がしっかり入っているし、衆議院議員会館は天井も高くてトイレもゆったりつくられている。それを子供たちは「きれい」と言ったのかと、周囲を見渡しているうちに思い出したんだわ。安倍晋三さんが総理大臣になったときに掲げた「美しい国、日本」のスローガンとは真逆の光景を。
思い起こせばバブルが崩壊した30年前、新しい建物が建てられなくなった途端、地方の見た目はどんどんヤバくなっていたんだよね。去年、私が母親の介護で茨城県に4か月間住んだとき、改めてまざまざとその惨状を目にしたの。
晴れた朝、小高い丘からの風景は誰にも教えたくないほどの美しさで、筑波山は紫色に輝いて、遠くには日光連山。バイクで走りながら何度「わぁお!」と歓声を上げたかわからない。
でも、ふと横を見れば、さびたガードレールにひび割れた道路。国道を走れば、廃墟マニアだって近づかない廃業したパチンコ店に倒産したレストラン。これらがチラリと目に入るたび、無意識にパス、パス、パス。「見ちゃダメ!」と脳からの指令が出て、それがまた疲れるんだわ。
わが郷里の名誉のために言うと、これは茨城に限ったことじゃなくて、日本全国どこでもそう。どんなに栄えている地方都市でも、中心街から少し離れると“廃墟群”が出現する。鉄旅で全国あちこちをフラフラしている私は、地方の駅舎から街中に出るとき、「何を見てもガッカリしません」と小さな覚悟を決めているくらいだもの。
そうなった理由は、人口減と首都圏への人口集中。車社会に巨大なショッピングモール。それから長く続く景気の低迷……。耳にタコだ。
「いくらなんでも、こう廃墟が続くと気分が落ち込まない? 朽ち果てるに任せてないで、市や県が補助金を出して更地にすればいいのに」
たまりかねて、知り合いの市議会議員にそう言うと、「金にならないことに予算がつくのは災害だけ」と即答された。「地方に美観を求めるのは、たまに田舎に帰ってくる都会人だけじゃない。地元民なら誰だってそう思っている」って返されたけど、そりゃ、そうよね。
でも、あきらめたように市議はこうも言った。
「でも、目が慣れちゃうってこともあるかも。そうじゃないと、ここにいられない」