作品の注目度が高まれば一定のアンチが出現するのは常だが、今回の場合はどう捉えるべきか。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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「ツッコむ気もしなくなってきた」「ドラマを見ているより視聴者のネット批評を見る方が楽しい」「NHK史上最低最悪のドラマでは?」(いずれもWEB上の反響コメントより)──残すところ約1ヶ月半。スタート時には想定していなかった結果を生み出しているNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』。
このドラマをめぐっては、他にも珍しい反応がありました。8月14日、元農林水産副大臣・元参院議員の礒崎陽輔氏がツイッターでこうコメント。
「脚本の論理性が崩壊しています」「私自身沖縄振興の関係者として残念であり、既に手後れかもしれませんがNHKは猛省する必要があります」。これほど直接的なコメントが政治家から放送中のドラマに対して発せられるというのも異例。
当然ながら注目を集め、「政治家も言論の自由がある」「いや政治家は黙っているべき」「政治家かどうかは別にしても、まったく同感」等さまざまなリアクションがありました。
そもそもNHK朝ドラとは、何なのか。多くの人にとって「生活・文化的インフラ」的な存在、そんなコラムを私自身、先月書きました。伝えたかった主旨とは「日本で暮らす多くの人々が一般的に共有している感性や慣習、常識に基づいて物語が描かれていくはず……無意識のうちに視聴者はそれを期待している」こと。しかし『ちむどんどん』はインフラの破綻や破壊が目立つゆえ、多くの人々が違和感や不快感を抱かざるをえない。
もちろん、半年に亘る朝ドラの脚本を書くことはそう簡単ではないでしょう。今回は特に実在のモデルがいるわけではなく、一からのオリジナル。物語を生み出す力も生半可なものでは間に合わない。脚本・羽原大介氏は「全体の構成案が出来上がったのが約2年前」と公式HPで語っていて、少なくとも内容を練る時間はじっくりとあったようです。
その上での破綻だとすれば……朝ドラの脚本を一人の作家に依存するリスクは大きい、と感じざるをえません。そもそも海外のドラマでは「チーム制」が常識であり、日本のドラマ界にも必要な取り組みではないかと、真剣に思う今日この頃です。
もちろんNHK自身も危機感を抱いているようで、局内に脚本開発に特化したチーム「WDR(Writer’s Development Room)プロジェクト」を立ち上げる、という記事を見ました。
「海外ではシリーズドラマを制作する際、複数の脚本家が『ライターズルーム』という場に集い、共同執筆することが一般的です。構想段階からメンバーと物語の内容を共有し、アイデアを提供し合う」、「1人で書いていると手詰まりだったことも、違う人のアイデアで乗り越えられることって意外と多い。そうやって、チームで物語の強度を高めていくのがWDRプロジェクトの狙いです」(日刊スポーツ 2022.6.30)と語っているのは、大河ドラマ「真田丸」「鎌倉殿の13人」を担当し、米UCLAで脚本の手法を学んだNHKプロジェクト・ディレクター保坂慶太氏。
WDR体制で「構想段階からメンバーと物語の内容を共有し、アイデアを提供し合う。構成が得意な人もいれば、せりふが得意な人もいて、そういう才能を掛け合わせながら知恵を出し」ていくことで完成度の高い脚本ができるという。では、今回の朝ドラの脚本はどうやって生まれたのか? もちろんクレジットには羽原大介氏の名前がありますが、驚くことに「チーム制」にかなり近似した方法をすでにとっていたもよう。羽原氏自身こう語っています。
「執筆にあたっては、まず初めに最終週までのプロットを作リました。これを土台に第1週から話の展開やセリフーつ一つを詰めていき、さらに小林さん(制作統括)と木村さん(チーフ演出)と3人で揉んで、また書いては揉んでと、何度も打ち合わせを重ねました。相当な試行錯誤でしたよね」(『連続テレビ小説ちむどんどんPart1 NHKドラマ・ガイド』NHK出版)