ヤクルトの村上宗隆(22)が三冠王に向け邁進中だ。本塁打41本、101打点は2位を大きく引き離す独走状態(数字は8月16日終了時点、以下同)。
球界のレジェンドからも「自分のツボがあって、配球を読んで三冠王を獲ったノムさん(野村克也氏)とは全く違うタイプ。穴がなく、逆方向にあれだけ放り込めるのは凄い。背筋が相当強い証拠」(通算350勝の米田哲也氏)と絶賛の声があがっている。
残るハードルは打率で、1位のDeNA・佐野恵太に2厘差の3割2分と肉薄するが、過去の例ではセ・リーグで「二冠王」は45回あり、そのうち34回が「本塁打・打点」の二冠。つまり“打率だけ逃す二冠王”が最も頻繁にあるパターンなのだ。
「村上はボールを振らなくなったし、三振も減った。いいバッターになったよ。あとは打率だね」
そう話すのは中日OBで通算2062安打の谷沢健一氏。谷沢氏は1976年に首位打者を獲得し、同年に本塁打・打点の二冠を獲った巨人・王貞治の三冠王を阻止。1980年には同様に打率トップとなって広島・山本浩二を二冠王に留めた経験を持つ。
ポイントは2度の“三冠王阻止”の際の谷沢氏の打率が3割5分5厘、3割6分9厘とハイレベルだったことだろう。
「王さんや浩二さんの(三冠を阻止した)時と違って、今季はリーグ打率1位の数字がそんなに高くないからね(笑)。そういう意味で村上にチャンスはあるでしょう。イチローのように4割近く打つバッターがいるとホームラン打者の三冠王はハナから難しいからね」
ただし、数字を積み上げる本塁打・打点と、上下動する打率では意識が変わる。だからこそ、谷沢氏は「率ばかり気にしないほうがいい」と話す。
「当てにいくバッティングになり、こぢんまりしてしまう。だから、打率ではなく安打の本数を目標にするといい。村上は38試合を残して115安打。四球もあるから、あと50本打って160本超えが目標でしょう。毎日の打率の数字は気にしない。そうすれば三冠王になれると思うよ。僕が1976年に首位打者を獲った時も、残り30試合で40本打てばトップを走っていた張本(勲)さんの打率に近くなるという計算でやって1毛差で逆転した。村上もそんな気持ちでやれば3つ取れますよ」
“村神様”の令和初の三冠王達成はもう目の前だ。
※週刊ポスト2022年9月2日号