2018年に漫画家デビュー50周年を迎えた一条ゆかりさん。彼女の長年の経験と、鋭い洞察力から生み出された至極の言葉を集めたエッセイ集『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』が発売直後に重版となり、話題を呼んでいる。小学生時代に漫画を描き始めてからいまなお名作を生み出し続けているレジェンドの、素顔に迫るインタビュー。【全3回の1回目】
「わぁ~、一条先生だ!」と、思わずテンションが上がってしまう。何しろ、目の前にいるのは、少女漫画界のレジェンドだ。
『デザイナー』『砂の城』『プライド』といったシリアスな作品で人の心の機微を知り、『有閑倶楽部』をはじめとするコメディータッチの作品でユーモア精神を育んで大人になったという人も多いことだろう。
「そう言われると、とってもうれしいのだけど、『10才くらいのときに、“デザイナー”を読みました』なんて聞くと、ギクッとしちゃうんですよ。あの作品は複雑な血縁関係を描いているので、“家族観や恋愛観に悪影響を及ぼしてしまったのではないか?”って」と、一条さんは首を傾げ、少し間を置いてから「少女たちの夢をつぶしてしまったのではないかしら?」とポツリ。
とはいえ、読者だった私たちにしてみれば、リアリティーあふれる作品だからこそ刺激的だったというか、現実の厳しさを知って背筋が伸びたというか。
「うーん、でも現実って覚悟して受け入れてしまえば、意外となんとかなるんですよ。みんな怖がりなのよね。ドラえもんにお願いして、みなさんをタイムマシンで戦争時代に連れて行ってもらいたいくらいだわ。戦争中の生きるか死ぬかの大変さに比べたら、恋の悩みや仕事の悩みは後回しね。
うまくいけば『私えらい!』と自分をほめて、玉砕しても、失敗を次に生かしてやり直せる時間はまだあるでしょ? 人間はけっこう慣れる生き物だから、だんだん慣れてちびちび強くなって粘ってたら不思議と成長しているわよ」
この説得力、半端ない。聞いているだけで勇気がどんどん湧いてくる。しかも、一条先生のパワフルさは増すばかり。
「ピンチは来るときはイヤでも来るから、逃げる人生より進む人生の方が結局は楽ですよ。
私は高校在学中に漫画家としてデビューしたのですが、人生を懸けようと意を決して岡山から上京した20才のときには、漫画家だけでは食べていけないからバイトせねばと思いました。水商売ならスナックまで。客の横に座らずカウンターの中でとか……あれこれ考えたけど、実際には一度もバイトしませんでした。