「旧統一教会の政策が不当に自民党の政策に影響を与えたとは認識はしておりません」。岸田文雄・首相は内閣改造後の記者会見で自民党政権と旧統一教会の関係についてそう強調した。
だが、「安倍一強」「清和会(安倍派)支配」と言われた政治体制のなかで、官僚たちが総理の意向を忖度し、モリ・カケ疑惑や桜を見る会問題では安倍元首相を守るために公文書を改竄、国会で虚偽答弁を重ねるなど日本の行政が大きく歪められたのは間違いない。元文部官僚の寺脇研・京都芸術大学教授が「清和会の支配」の弊害をこう語る。
「清和会支配の特質は安倍政権で顕著だった強権的な政治手法です。官僚を支配し、与党である自民党の反対派を黙らせ、国会では野党の言い分を軽視して数の力で押し切り、モリ・カケ問題に象徴されるように都合の悪いことは質問にまともに答えない。これが最大の弊害でしょう。
かつての田中派や竹下派もいまの清和会のように最大派閥として自民党をリードしていたが、自民党内で強い力を発揮する一方で、官僚に対しては『うまくやってくれ』と任せる姿勢で国を運営していた。これが清和会の政治と大きく異なる。竹下さんの手法は官僚依存と批判を浴びたが、少なくとも、議論を尽くさずにやりたいことを強引に進めていく安倍政治は民主主義のルールを壊し、官僚の私物化につながった。官僚が国民を見ずに官邸を忖度しながら仕事をするようになったからです」
その清和会は伝統的に文教行政に強い。財務省や国土交通省(旧建設省)、農水省など巨額の予算や強い権限を持ち、多くの業界を傘下に従える利権官庁は旧経世会の影響力が強く、傍流派閥だった清和会の議員には食い込むのが難しかったことが背景にある。勢い、清和会は予算も権限も小さい文部省などを拠点化した。
寺脇氏は、文科省が旧統一教会の名称変更を認めたのも、清和会支配と関係していると見る。
「清和会は文教行政に強く、森(喜朗・元首相)さんや町村信孝さん(元清和会会長)のような大物の文教族議員がいた。が、とくに私が仕えた町村さんはかなり厳しい人ではあっても、決して強権的ではなかった。
しかし、安倍政権の下村博文・文部科学大臣は省内を強権支配していた。私はすでに退官していましたが、課長補佐の人事まで口を出し、気に入った役人はドンドン登用し、気に入らない役人は外すという露骨な人事を行なったと現場から聞いていました。そうした人事で文科省の役人はどんどん疲弊し、大臣の顔色をうかがうようになっていった。
現在問題になっている旧統一教会の名称変更も、下村氏は『自分は指示していない』と言っていますが、下村大臣にイエスと言わなければならないという風潮が省内全体にはびこっていたから、現場が大臣の意向を忖度して前例に反する形で名称変更を認めてしまったと考える。まさに強権政治がもたらした弊害そのものです」
安倍派と旧統一教会の解明すべき闇はまだ多いようだ。
※週刊ポスト2022年9月2日号