医学界に独自の主張で一石を投じた医師・近藤誠氏が8月13日に虚血性心不全で亡くなった(享年73)。
1996年に抗がん剤の弊害などを強調した著書『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋刊)がベストセラーに。がん専門医から科学的根拠を問う反論が続出し、医学界に論争を巻き起こした。
「抗がん剤は効かない」「手術をしてはいけない」といった持論は後に“がん放置療法”に発展し、大きな波紋を広げた。
近年は新型コロナウイルスのワクチン接種の効果や副反応リスクに警鐘を鳴らすなど、最後まで“医療の常識”を巡って注目を集める人物だった。
近藤氏を古くから知る医療ジャーナリストの油井香代子氏が語る。
「亡くなった際に、知人の編集者から連絡をもらって知りました。その後、失礼かとは思ったのですがご自宅に連絡し『原因は不明だが、私たち家族も突然のことで驚いている』と伺いました」
油井氏が近藤氏と出会ったのは、1990年代初頭のこと。今よりも医学界や大学病院の“権威主義”が顕著だった時代にあって、異端視される存在だった。
「その頃は医師が絶対の存在で、患者が医療に対してあまりモノを言えない雰囲気がありました。ですが、近藤先生は患者の目線に立つことを徹底した人でした」(同前)
近藤氏と言えば抗がん剤や手術全般に対する否定的な見解が有名だが、油井氏は別の部分に功績があったとみている。
「彼は色んな批判もありましたが、私は医療界に大きな功績があったと思っています。1つは乳がんの『乳房温存療法』を広めたことです。今では標準的な療法ですが当時、近藤先生が提起した時、外科医などから猛反発を受けていました。それでも医学的に正しいと主張し続け、現代では“当たり前”の治療法になりました。
同じように、患者さんにしっかりと治療を説明する『インフォームドコンセント』という考え方を広めることにも貢献したと考えます。ご冥福をお祈りします」(油井氏)
賛否が割れる主張を続けた近藤氏。まさに異端の医師人生であった。
※週刊ポスト2022年9月2日号