病気を治すための“治療”だが、その“治療”自体がリスクを生むケースがあるという。東海大学名誉教授の大櫛陽一さんが危惧するのは、漫然と高血圧の投薬治療がなされている現状だ。
「一般的に収縮時の数値が130mmHg以上で保健指導、140mmHg以上で受診推奨となります。受診すると大抵はすぐに薬を処方されます。そのため、中高年になると降圧剤をのむ人が増えます。しかし、加齢とともに数値が上がるのは自然な現象であり、投薬治療が不要な人も多いのです」
大櫛さんによれば、女性の場合、30代で130mmHg以下、40代で140mmHg以下、70代では健診時165mmHgであれば正常範囲だという。
「健診時の血圧は緊張などによって家庭で計測するときよりも高く出やすいうえ、計測する時間帯によって30~40mmHgの差があることも珍しくない。自宅で就寝前に測定して140mmHg以下ならば健診で異常と判定されても降圧剤は不要です。
むしろ検査時の数値をもとに薬をのみはじめてしまえば、血圧が下がりすぎてふらつきや転倒のリスクが生じるうえ、血流が滞った結果、脳梗塞を起こす可能性すらあります」(大櫛さん)
閉経後の女性は、「高LDLコレステロール血症」と診断されることも多いが、欧米では女性と高齢者にコレステロール低下薬は不要とされていると大櫛さんは続ける。
「健診でLDLコレステロール値が140mg/dL以上あれば医療機関の受診を勧奨され、代表的な治療薬『スタチン』を処方されるケースが多い。しかし、2004年に発表された研究論文によって、心血管疾患と診断されていない女性はLDLコレステロール値が高くても健康に問題ないことがすでに明らかになっており、欧米では“スタチン不要説”が一般的です。日本人を追跡した多くの研究でも、女性はコレステロール値の高い方が、死亡率が低いとわかっている。また、コレステロール値が低いと新型コロナに感染しやすく、感染すると重症化する比率が高いことも報告されています。
一方で、スタチンには筋力の低下など重篤な副作用もある。どちらにデメリットがあるかは一目瞭然でしょう」(大櫛さん)
血液中の中性脂肪も同様だ。新潟大学名誉教授の岡田正彦さんが解説する。
「中性脂肪の値は150mg/dL以上で『高トリグリセライド血症』と診断され、ほぼ間違いなく薬が処方されますが、その副作用は決して弱くありません。処方されている薬の多くは血流をサラサラにする作用もあるため、逆に出血を起こしやすくなる。薬をのんだ人とそうでない人を追跡調査した結果、のんだ人の寿命の方が短いことが判明しており、原因の1つは脳出血だと指摘されています」