8月も半ばを過ぎ、そろそろ夏の終りにさしかかる時期だが、まだまだ暑い日々は続く。そんなときには、涼しい部屋の中で読書を楽しむのはどうだろうか。注目の新刊4冊を紹介する。
『夜に星を放つ』
窪美澄/文藝春秋/1540円
著者の真髄は短編にあり、と思わせる直木賞受賞作。双子の妹を亡くし、早く結婚したいのに婚活アプリで知り合った男性との距離が縮まらない30代女子の「真夜中のアボカド」、中学生みちるの毎日に交通事故で死んだ母親が寄り添う幽霊譚「真珠星スピカ」。窪作品は中学生や高校生の男子が主人公だと情感の密度が濃くなる。理想型を書いてる? 男女の描き分けも楽しんで。
『声をたどれば』
若松真平/小学館/1540円
昔のちょっといい話は貧困にまつわるものが多かった。しかし21世紀のちょっといい話は、コロナ禍、故人、夫婦の亀裂、子育ての難問など多岐にわたる。危篤の愛犬のために休暇をくれた職場の上司、廃棄寸前の菓子「パンダのうんこ」に殺到したネット注文、ネクタイをいつも電話で注文してくるワケ。朝日デジタル編集部の著者が背景を深掘りし、無縁社会を有縁にする全25話。
『「みんな違ってみんないい」のか? 相対主義と 普遍主義の問題』
山口裕之/ちくまプリマー新書/924円
ヴィトンのバッグも岩波文庫も価値は同じと、田中康夫氏が颯爽とデビューしたのが1980年。価値相対主義(多様性)は新鮮だった。しかしこの10年、それに苦しめられている。先日も山際大臣が「野党の話は聞かない」と公言したように、強い者にあっさり切り捨てられる。みんなで守り育てる“正しさ”はないのか? 結論を言えばある。それを順に説く。大人こそ是非読んで!
『すべて忘れてしまうから』
燃え殻/新潮文庫/572円
コップの中の記憶をかき混ぜると、カケラのようなものが浮上し、表面近くを漂い、またゆっくり沈んでいく。著者のエッセイには、そんな“たゆたい”がある。テレビ局に持っていっては値切られる美術下請けという定職、自らカンヅメになる上野のホテル、16才で煙草をやめた不良王道の中学時代のアイツ、SNSで知る昔の恋人の今。数回登場の祖母の格好いいこと。忘れ難い。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年9月1日号