時代を超えて愛され、今も胸に刻まれる曲を数多く発表してきた井上陽水(73才)。彼を語る上で避けて通れない独特な歌詞は、“言葉のプロ”も魅了する。明治大学文学部教授の齋藤孝氏も、熱心な陽水ファンの1人だ。
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陽水さんの楽曲を初めて聞いたのは小学生の時です。兄が『陽水II センチメンタル』(1972年)と『氷の世界』(1973年)の2枚のLPアルバムを買ってきて繰り返し家の中でかけていたので、この2枚の曲は自然と全部憶えてしまいました。当時から「こんな歌詞を作る人がいるんだ!」と驚きがありました。
小学生の頃から“陽水ワールド”が大好きでしたが、18歳で東京に出てきて浪人生活を送っていた時にとりわけ心に沁みた1曲があります。それが『陽水II センチメンタル』の冒頭の『つめたい部屋の世界地図』です。
私は当時、静岡の家族や友人と離れ、アパートでひとり暮らしをしていました。孤独な状況の中で遠い世界への憧れが広がっていく歌詞が、何もできない状況なのに「はるかな世界へ旅立っていきたい」との思いが広がっていく自分の状況にぴったりでした。
「船」という歌詞がまたよかった。陽水さんの曲の歌詞には「船」がよく出てきます。飛行機や電車ではなく、大海原に浮かぶ船自体が孤独を感じさせます。東京という大海原でアパートの1室が船みたいに揺れているように感じていた私の心象風景に重なり、美しい表現と攻める歌詞の両方に惹かれ、この曲をよく聞いていました。心がしっかり癒されていくと同時に、自分を奮起させてくれた作品です。
陽水さんの歌詞がもたらす想像の広がりは尋常ではありません。私の脳に常に刺激を与えてくれた存在であり、陽水さんの言葉の力に大きな影響を受けてきたと思います。