芸能

音楽評論家・富澤一誠「井上陽水は時代の波を乗りこなす“時代のサーファー”」

音楽評論家の富澤一誠氏は井上陽水の曲をどう見る?

音楽評論家の富澤一誠氏は井上陽水の曲をどう見る?

 1970年代から活躍し、多くのアーティストに影響を与えてきた井上陽水(73才)。長く支持され続けてきた理由はどこにあるのだろうか。音楽評論家の富澤一誠氏に聞いた。

 * * *
 井上陽水の楽曲をカバーするアーティストが年齢や性別を問わず多いのは、「いい曲だから」の一言に尽きます。ただ、世の中には本人が歌うといい曲だけれど、他の人が歌うとそうでもないという曲はたくさんあります。陽水の曲のカバーでいい作品が数多く生まれるのは、陽水が作る歌詞とメロディの“デッサン”が素晴らしいからです。

 絵にたとえると、大元のデッサンがいいからこそ、それをベースに油絵、水彩画、水墨画などどんな手法でも上手に絵を描ける。つまり、陽水の曲には多種多様な表現を支える力があり、カバーするアーティストはそれぞれの個性で陽水とは別の味を出すことができるというわけです。

 幅広い曲が揃っているのもカバーされる人気の理由でしょう。陽水は個人でブームを2度作りました。最初はフォークシンガーとして『心もよう』『傘がない』など具体的な詞を書き、抒情的なメロディで歌いました。その後、ポップス、ロック、サウンド志向に変化していった結果、『ジェラシー』『リバーサイドホテル』『いっそセレナーデ』『少年時代』など、70年代とは異なるテイスト・言葉の歌が生まれてきました。これほど1人でまったく違う世界を作り上げたのは、陽水ぐらいしかいない。

 吉田拓郎が我々を代弁する“時代のヒーロー”とすれば、陽水は時代がどんなに変わろうとも、その時代の波をうまくとらえて見事に乗りこなす“時代のサーファー”。その先駆者です。時代の波を乗りこなすセンスは決して古くならない。平成生まれのアーティストや人々の心にも響き、今後もカバー作品は増えていくでしょう。

【プロフィール】
富澤一誠(とみさわ・いっせい)/1951年生まれ、長野県出身。音楽評論家、尚美学園大学副学長。東京大学を中退し、音楽評論活動を開始。レコード大賞審査員、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長などを歴任。2018年から現職。

取材・文/上田千春

※週刊ポスト2022年9月2日号

多くの人を魅了してきた井上陽水(写真/共同通信社)

多くの人を魅了してきた井上陽水(写真/共同通信社)

関連キーワード

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン