各地で厳しい残暑が続くこの季節。エアコンが効いた涼しい部屋で読みたいおすすめの新刊4冊を紹介する。
『そして誰もゆとらなくなった』/朝井リョウ/文藝春秋/1540円
500枚の書き下ろしエッセイ。ゆとり世代の著者が“ゆとらない”個人的事情を克明に書く。それは自分では制御できない括約筋事情。大尊敬する上司の送別会での惨事(可哀想で泣きました)、ロスの友人宅での深夜の突発事(袋の捨て場に気をもみました)。取材する皆さん、ぜひ次の言葉を最初にかけましょう。「朝井さんいつでもダッシュOKです。ただし戻って来て下さいね」。
『#真相をお話しします』/結城真一郎/新潮社/1705円
ITがもたらした現代の事象をミステリーに仕立てる。家庭教師派遣の下調べで一軒家を訪れた(少し鈍い)東大生が事件に遭遇する「惨者面談」、マッチングアプリで出会う中年男と女の「ヤリモク」(ヤルのが目的の意)、精子提供という善意が不都合な真実をあぶり出す「パンドラ」、自然豊かな島に移住してきた子供達の「#拡散希望」など、5編とも軽やかな文体で快読する。
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』/青柳碧人/双葉文庫/770円
赤ずきんが旅の途中で出くわす事件を解決していく。西洋童話「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」などの愛すべき主人公達が腹に一物ある存在として登場する黒さに笑いつつ、ミステリーとしての結構も楽しめるのがミソ。圧巻は赤ずきんの旅の目的が明らかになる最終章「マッチ売りの少女」。映画化され来年ネットフリックスで世界に配信される。その前にご一読を。
『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』/横田増生/小学館新書/1320円
出版界では単行本を新書にして新しい読者を獲得するのがトレンド。本書も2019年刊の単行本を改題する。この2年コロナ禍の巣ごもり需要もあってアマゾンは絶好調。最近では「ルンバ」も買収した。どこまで巨大化する? でも秘密主義、劣悪な労働環境、中小出版社を潰しかねない手の平返し、脱税と紙一重の租税回避など暗部は暗部のまま。夢中で読み耽る問題提起の書だ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年9月8日号