五輪汚職事件で逮捕された大会組織委員会元理事は、東京地検特捜部の調べに対し「組織委会長だった森喜朗・元首相にAOKIを紹介した」と証言。本誌・週刊ポスト前号(2022年9月2日号)でレポートした通り、高橋氏と森氏との“蜜月”に捜査が及ぼうとしている。ノンフィクション作家の森功氏が追及する。(文中敬称略)
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東京地検特捜部が進める2021東京五輪汚職は、この先どのような展開を見せるのか。電通の元専務にして五輪誘致を主導し、組織委員会の理事まで務めた高橋治之(78)が、事件の主役であるのは疑いようがない。地検は高橋が紳士服のAOKIグループから受け取った顧問料を賄賂だと見て、証拠を固めてきた。
高橋の逮捕容疑である受託収賄罪は単純収賄と異なり、賄賂の見返りとして頼み事をする請託が事件立証のカギとなる。半面、今度の構図は比較的単純でわかりやすい。
特捜部はさる8月17日、高橋と同時に贈賄の疑いでAOKI幹部を逮捕した。AOKIが2017年1月以降、五輪の大会オフィシャルサポーター契約や公式ライセンス商品の販売契約などを獲得すべく高橋に依頼し、その請託を受けた見返りとして高橋が2017年10月~2022年3月までの4年半にわたり、5100万円の賄賂を受領した──。
AOKI側の逮捕者は、前会長の青木拡憲(ひろのり・83)と専務執行役員の上田雄久(40)、そして青木の実弟の前副会長、青木宝久(たかひさ・76)の3人だ。贈賄罪の公訴時効は3年と収賄罪より2年短いため、AOKIによる賄賂は2800万円となっている。
事件では物証もそろっているので、東京地検は捜査がやりやすいように感じる。
周知のようにAOKIでは前会長の青木拡憲が事件を主導したと伝えられる。事実、2017年9月に高橋の経営するコンサルタント会社『コモンズ』と顧問契約したのが、青木の資産管理会社『アニヴェルセルHOLDINGS』であり、特捜部はそこからの金銭のやり取りを受託収賄容疑における立証の柱に据えている。
が、特捜部の狙いはそれだけではない。実は、ここへ来て、実弟の青木宝久の逮捕に注目が集まっているのである。検察関係者が説明してくれた。
「AOKI側で逮捕された3人は、高橋の経営していたステーキハウスなどで会食をしています。うち一番若い上田は高橋との折衝の実働部隊で、スポンサー話が出た2017年1月の懇親会では、AOKI側の要望を説明しています。その場で要望書を渡そうとした。ところが、高橋氏が受け取りを拒んだため、読み上げたと供述しています」
当初、高橋が東京五輪に関するAOKI側の要望書を受け取らなかったのは、証拠として残ることを恐れたからであろう。反対にAOKI側は自分たちの希望を明確に残す必要性を感じていたため、録音という手段に出たのかもしれない。そこがアダとなった。
言った言わない、の世界で物事を頼む請託の立証には、音声記録は重要なポイントとなる。つまり請託の実働部隊である上田は、首謀者の青木拡憲とともに捜査当局にとって欠かせないキーマンだ。そのために逮捕する必要があったわけである。
高橋はその後2018年9月にAOKI側の要望書を受け取り、特捜部は要望書だけでなく社内メールも押収し、受託収賄容疑の立件に自信を深めた。