日本人なら一度は見ておきたい国宝6作品など、皇室に代々受け継がれてきた名品が一堂に会する展覧会、特別展『日本美術をひも解く─皇室、美の玉手箱』が東京・上野で開催中。まさに日本美術のオールスター揃いの“玉手箱”を、アートに造詣が深く、個性豊かな粘土作品が話題の片桐仁さんと、思いっきり堪能してきました!
国宝『唐獅子図屏風』(右隻)は、織田信長や豊臣秀吉に仕えた桃山時代の名絵師・狩野永徳の作。「500年ほど前の作品でも、ものすごいパワー! 唐獅子の目力に圧倒されますね。強そうな顔が武田信玄みたい!」と片桐さん。
本展では、宮内庁三の丸尚蔵館に収蔵される皇室の至宝に、東京藝術大学のコレクションを加えた82 件の美術品が集結。8月28 日までは国宝『唐獅子図屏風』が展示され、後期の8月30 日からは、伊藤若冲が描いた国宝『動植綵絵』が10 幅も揃うというから見逃せない。東京藝術大学大学美術館長の黒川廣子さんは、「目で見る喜びを体感してほしい」と語る。
「最近はWebなどで作品を目にすることも増えましたが、本物の美術作品を見たときの色や質感はまったく違います。緻密な仕事が得意な日本の技巧をぜひ細部まで楽しんでほしい。展示パネルには難しい専門用語はできるだけ使わない解説で、わかりやすく日本美術をひも解けるように工夫しました」
■見どころ1 宮内庁三の丸尚蔵館の「国宝5作品は必見」
宮内庁三の丸尚蔵館は、1989年に天皇陛下(現在の上皇陛下)と香淳皇后が昭和天皇のご遺品を国に寄贈されたことに始まり、皇室に代々伝わる美術品約9800点を収蔵。その収蔵品のうち5作品が昨年初めて国宝に指定され、今回お披露目された。「個人で収蔵するには保管が難しく、後世に美しい状態で残すのは厳しいケースも。そのため、皇室に献上された作品も数多くあるのです」(黒川さん)。
■見どころ2 日本の美術学校の先駆け、東京藝術大学とコラボ
東京藝術大学は、前身の「東京美術学校」時代に宮内省から委託された美術品に関する資料を多数所蔵し、皇室ともゆかりが深い。「皇室の品々だけでなく、国宝『絵因果経』や高橋由一の重要文化財『鮭』など、東京藝術大学のコレクションも展示しています」(黒川さん)。
■見どころ3 まるで動き出しそうな動物たちが愛らしい
「本展は全4章で構成されており、なかでも3章の『生き物わくわく』は動物や昆虫、植物などをモチーフにした名品ばかりを集めました。かわいい生き物たちに魅入ってしまう、日本美術初心者でも親しみやすいコーナーです」(黒川さん)
■見どころ4 平仮名の原点、文字の優美さに触れる
平安時代に生まれた日本独自の仮名は、物語や和歌を生み出し、それらをモチーフにした絵巻物などの美術品へと発展していく。「文字は日本美術の土壌を築くのに欠かせないもの。平仮名の原点となった仮名の美しさに触れてみて」(黒川さん)。
●国宝『唐獅子図屏風』(右隻)狩野永徳、(左隻)狩野常信(~8月28日まで展示)
右隻:桃山時代(16世紀)、左隻:江戸時代(17世紀)宮内庁三の丸尚蔵館蔵
桃山時代に狩野永徳が描いた雌雄の唐獅子と江戸時代にひ孫の狩野常信が描いた唐獅子が並ぶ。「戦国の世の唐獅子は豪華絢爛で勇ましく大迫力。一方、泰平の江戸時代の唐獅子は軽やかで愛らしい。時代を超えた2枚の唐獅子を見比べてみてください」(黒川さん)。
●国宝『春日権現験記絵』(巻四部分)高階隆兼(巻四:~9月4日まで展示、巻五:9月6日~9月25日まで展示)
鎌倉時代 延慶2年(1309)頃 宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「みんな同じ顔じゃなくて、こっちのおじさんは驚いて目をむいていたり、一人ひとりの表情がみんな違っておもしろい。衣装も細部まで丁寧に描かれていて、当時の貴族たちの様子が鮮やかに蘇ります」(片桐さん)
鎌倉時代の絵所預(宮廷絵師集団の責任者)である高階隆兼が描いた絵巻物。「当時トップクラスの絵師の作。いまもなお鮮やかな発色で、全巻揃っているのも大変貴重です」(黒川さん)。
●重要文化財『鮭』高橋由一(通期展示)
明治10年(1877)頃 東京藝術大学蔵
「この鮭の切手を持ってました!」と、ひときわ目を輝かせる片桐さん。「間近で見ると皮のブヨブヨした質感などが秀逸。大胆な構図やモチーフから油絵へと移行していく時代背景を感じます」(片桐さん)。
●『菊蒔絵螺鈿棚』(図案)六角紫水・(蒔絵)川之邊一朝ほか・(金具)海野勝ミン(ミンは王編に民)(通期展示)
明治36年(1903)宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「漆で描いた満開の菊に約4kgもの金や銀でできた金粉を15種類蒔き分けていったと考えると……その緻密な作業に圧倒されます。これぞ、ものづくりニッポンの匠の技!」(片桐さん)
明治天皇のご許可のもと、東京美術学校と宮内省が共同制作。「蒔絵には佐渡の金、螺鈿には沖縄の夜光貝を贅沢に使用。蒔絵は棚の裏側、観音扉の中まで施され、本展の幕開けにふさわしい逸品です」(黒川さん)。
●『鼬』(通期展示)
明治時代(19世紀)宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「美術鑑賞をするとき、まずは真っ白な気持ちであまり難しいことは考えず、自分の中の“なんかいいな!”を大事にしています。このイタチはいまにも動き出しそうで毛並みも繊細で 本物みたい。かわいい顔や 動きも気に入りました」(片桐さん)
「イタチの赤褐色の毛皮を赤みの強い素銅で表し、目と髭には黒い赤銅、歯や爪には銀を使用するなど、細やかな技が光ります」(黒川さん)。明治天皇の棚飾りとして愛用されていた。
●『大色紙』伝 藤原公任(~9月4日まで展示)
平安時代(12世紀)宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「これは君が代のもとになった和歌が書かれているそうなので、実際に読んでみたら、“ちよに『ま』ちよに…??”現代人には読めないけれど、昔の人の息遣いを感じました。どの作品にも、時代を超えて当時のエネルギーが残っていますね」(片桐さん)
紙が貴重な時代に、雲母を贅沢に使った唐紙に『古今和歌集』の賀歌から3首を散らし書きしている。「唐紙が放つ光の輝きに、豊潤流麗な筆致が絶妙に融合しています」(黒川さん)。
【特別展『日本美術をひも解く—皇室、美の玉手箱』】
会場:東京藝術大学大学美術館
住所:東京都台東区上野公園12-8
会期:9月25日(日)まで(※会期中、展示替えおよび巻替え)
休館日:月曜(9月19日は開館)
開館時間:10〜17時(9月の金・土は19時半まで開館)※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般2000円ほか
【プロフィール】
片桐仁/多摩美術大学卒業。在学中に小林賢太郎と『ラーメンズ』を結成し、舞台を中心にテレビ、ラジオなどで幅広く活躍。また造形作家として粘土作品を多数発表し、個展を開催するなど話題を呼んでいる。著書に『親子でねんど道』(白泉社)など。
撮影/田中智久 取材・文/岸綾香
※女性セブン2022年9月8日号