教育現場で、発達障害の急増が懸念されている。文科省の調査では、令和3年度の自閉症の子供は平成18年度の約6.5倍、LD(学習障害)は約11.5倍、そしてADHD(注意欠陥多動性障害)は約15倍に増加している。北海道教育大学教育学部教授の片桐正敏さんが指摘する。
「学校基本調査では、平成19年度に7万9000人だった小学校の特別支援学級在籍者数が、令和3年度には23万人を超えています。特別支援学級にいるすべての児童が正式に発達障害の診断を受けているわけではありませんが、毎年1万人以上も在籍児童が増えているのは事実です」
少子化で子供自体の数が減っている中、発達障害の子供の数が急激に増えている理由としてまず考えられるのは、認知度の高まりだ。
「2005年に発達障害者支援法が施行されたことでADHDなどの発達障害が一般にも広く知られるようになり、保護者が“もしかして、うちの子も?”と、専門機関を受診させることが増えました。また、近年発達障害の診断基準が変わったことで、単純に、基準に該当する人が増えたことも一因です」(片桐さん・以下同)
ただし、診断を受ける人が増えたこと以外の主因についてはいまも明らかになっていない。農薬や食品添加物の影響も囁かれるが、これも科学的な因果関係が明かされているわけではない。
「最新の研究でも、母親の農薬暴露や残留農薬と、発達障害の一種であるASD(自閉症スペクトラム)のリスクに関連性はありませんでした。ネオニコチノイドなどの一部の農薬が神経や免疫に悪影響を与えるのは事実ですが、これを発達障害と結びつけるのは早計です」
ここで注目されるのが、デジタル端末の負の影響だ。山梨大学の研究チームがアメリカ医学会雑誌小児科版に発表したデータによると、1才時点でのスクリーンタイム(スマホやタブレットなどのデジタル端末の画面を見ている時間)がゼロの男児に比べ、「1~2時間未満」の男児は、3才時のASDの発症率が2.16倍、「2~4時間未満」で3.48倍、「4時間以上」で3.02倍にもなることがわかった。一方で、女児は統計的に有意な差はなかったという。
ASDは先天的な脳の一部の障害だが、症状の程度は、育った環境の影響を受けるといわれている。つまり、先天的に自閉症スペクトラムを持っている子供は、スクリーンタイムが長いと、その症状が悪化する傾向にあるのだ。さらに、その傾向は、生まれつき自閉症を抱えていない子供にも表れることがある。スマホ依存防止学会代表の磯村毅さんが言う。
「『ESS(電子スクリーン症候群)』といって、スマホやタブレットなどの画面からの刺激で子供の脳が変調し、発達障害やうつ、双極性障害などに似た症状が出ることがあります。
プロのゲーマーになるほどスクリーンの刺激に強い子がいる一方、友達から借りたゲーム機で少し遊ぶだけで、発達障害と間違えられるほど落ち着きがなくなる子や、学校でデジタル黒板が導入されたとたんに頭痛とチックが起こって成績が落ちる子もいる。スクリーンの刺激に強いか弱いかは、一人ひとり異なるのです」(磯村さん・以下同)