国内

池田勇人はなぜ「所得倍増計画」を実現できたのか 背景に「宏池会のブレーン」

宏池会の大平正芳氏(左)と宮沢喜一氏(写真/共同通信社)

宏池会の大平正芳氏(左)と宮沢喜一氏(写真/共同通信社)

 岸田文雄・首相が率いる「宏池会」(岸田派)は、自民党の保守本流と呼ばれる。それを創設したのが、日本を「経済大国」へと押し上げた池田勇人・元総理大臣だ。当時、池田派を支えたのは頭脳派のブレーンたちだった。所得倍増計画を実現した“最強政策集団”の実像を探る。【前後編の後編。前編から読む】(文中一部敬称略)

 * * *
 池田政権で宏池会は日本を経済大国へと押し上げる政策を次々に生み出していった。

 それを陰で支えたのが、池田の大蔵省時代の同期で、宏池会事務局長を務めた田村敏雄だった。戦後日本の政党政治を専門とする福永文夫・獨協大学教授が語る。

「田村を中心としたメンバーは宏池会で毎週定期的に政策研究会を開き、特に経済と外交分野の重点的な調査活動を展開した。その研究成果を派閥の機関誌『進路』に掲載して、所属議員だけでなく実業界、官界の協力者に配布した。これぞまさに政策集団のあり方でしょう」

 池田内閣の代名詞となった「所得倍増計画」もそうした政策研究から生まれた。理論づけたのは池田の経済ブレーンで、日銀政策委員や日本経済研究所会長を務めたエコノミスト・下村治を中心とする研究会であり、前述の宏池会機関誌『進路』には池田が首相に就任する前の1960年3月から「所得倍増実現の可能性を探る」という論文が連載されている。

「所得倍増の政策は下村治など宏池会のブレーンによって研究されたが、下村本人と大平正芳は池田の先見の明を評価しています。所得倍増の枠組みの基本となっているのは全国総合開発計画であり、池田はさらに農業基本法の制定や高等専門学校の制度の創立も実現した。池田がなぜ、早期に先進的な政策を打ち出せたのかは今後の研究課題であるが、その政策立案に宏池会の存在が欠かせなかったのは間違いない」(同前)

 経済界では、当時「財界四天王」と呼ばれた小林中・日本開発銀行初代総裁、日本商工会議所会頭の永野重雄・富士製鉄社長、日経連会長の桜田武・日清紡績社長、経済同友会幹事の水野成夫・産経新聞社長らが池田を強力にバックアップし、財界主流企業が宏池会を資金面、政策面で支援する関係ができた。

 池田の番記者を務めた山岸一平・元日本経済新聞専務は、池田と財界人の付き合いをこう語る。

「池田さんは夜の会合ではもっぱら財界人と飯を食った。財界四天王をはじめ、京都大学の同窓だった野村證券の奥村綱雄社長とは特に懇意で、首相に就任した翌年の1961年は正月を熱海の野村別邸(野村證券の保養所)で過ごした。番記者だった私も同行して近くの旅館に宿を取ったが、池田さんは正月三が日を奥村社長と一緒に過ごした。今なら問題になるかもしれないが、そんな付き合いで民間の経営者から生の経済を学んでいたわけです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

田中真一さんと真美子さん(左/リコーブラックラムズ東京の公式サイトより、右/レッドウェーブ公式サイトより)
《真美子さんとの約束》大谷翔平の義兄がラグビーチームを退団していた! 過去に大怪我も現役続行にこだわる「妹との共通点」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《「来来亭」の“ウジムシ混入ラーメン”動画が物議》本部が「他の客のラーメンへの混入」に公式回答「(動画の)お客様以外からのお問い合わせはございません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《追加生産決まる人気ぶり》佳子さまがブラジル訪問で神戸発ブランドのエレガントなワンピースをご着用 ブラジルとの“縁”を意識されたか
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンを食べようとしたらウジ虫が…》「来来亭」の異物混入騒動、専門家は“ニクバエ”と推察「チャーシューなどの動物性食材に惹かれやすい」
NEWSポストセブン
「ONK座談会」2002年開催時(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 長嶋一茂のヤクルト入りにカネやんが切り込む「なんで巨人は指名しなかったのよ。王、理由をいえ!」
週刊ポスト
タイ警察の取り調べを受ける日本人詐欺グループの男ら。2019年4月。この頃は日本への特殊詐欺海外拠点に関する報道は多かった(時事通信フォト)
海外の詐欺拠点で性的労働を強いられる日本人女性が多数存在か 詐欺グループの幹部逮捕で裏切りや報復などのトラブル続発し情報流出も
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
小室夫妻に立ちはだかる壁(時事通信フォト)
《眞子さん第一子出産》年収4000万円の小室圭さんも“カツカツ”に? NYで待ち受ける“高額子育てコスト”「保育施設の年間平均料金は約680万円」
週刊ポスト
6月9日、ご成婚記念日を迎えた天皇陛下と雅子さま(JMPA)
【6月9日はご成婚記念日】天皇陛下と雅子さま「32年の変わらぬ愛」公務でもプライベートでも“隣同士”、おふたりの軌跡を振り返る
女性セブン
(インスタグラムより)
「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画…直後に入院した海外の20代女性インフルエンサー、莫大な収入と引き換えに不調を抱えながらも新たなチャレンジに意欲
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン