都道府県を区切る「県境」。目に見えない境界線を辿っていくと、奥深く不思議な世界が広がっていた。全国各地にひっそりと、だが毅然と主張する県境の風景がここにある。
人の手で引かれた県境は、当然ながら目には見えない。ひと口に県境といっても、状況はさまざまだ。河川や稜線を境とするところもあれば、商業施設や神社の中に引かれている境界線もある。県境マニアたちは、人知れずわずかな手がかりを元にその場所を探し当て、見えないはずの境界線に思いを馳せる。
イラストレーターの田仕雅淑氏は、全国の県境を訪ね歩いてきた第一人者。県境をイラストにして、その魅力を広く世に伝える活動に力を入れている。
「県境の楽しみは、夜空に瞬く無数の星々から星座を結べた時の感動に似ていると思います」
複雑な歴史や、そこに住む人々が織り成してきた数々のドラマが潜んでいる県境も少なくないという。想像の翼を羽ばたかせ、見えないはずの県境に、過去が紡いできた“物語”を見る。そんな県境巡りの旅に出掛けよう。
●渋峠ホテル(群馬県⇔長野県)
標高2172mの日本国道最高地点に隣接するホテル。昭和50年代の増築で、県境をまたぐように外観が分かれた。屋内にも県境を表わす線が引かれている。
●イオンモール高の原(奈良県⇔京都府)
奈良の地名を冠しながら住所は京都という施設内には、メインフロアから駐車場、トイレ前の通路にまで府県の境が記される。両府県警の管轄を明らかにするためだという。