「3兄弟」と呼ばれる駅舎の重要文化財がある。東京駅、北九州市の門司港駅、出雲大社参詣の表玄関だった旧大社駅の3つだ。このうち、大社線の廃線にともなった1990年に廃止となったにも関わらず、駅舎が保存され国の重要文化財に指定された旧大社駅は、現在、大規模な保存・修理工事中だ。ライターの小川裕夫氏が、旧大社駅の保存・修理工事の難しさについてレポートする。
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1958年、日本国有鉄道が文化的・歴史的に高い価値があると考えられる駅舎や車両といった鉄道関連の設備・施設などを鉄道記念物に指定する制度を創設した。同制度により、一号機関車・一号御料車・0哩標識などが鉄道記念物に指定された。同制度の創設当初は、鉄道記念物に関心を寄せるのは鉄道業界関係者や鉄道ファンと範囲は限定的だった。
しかし、同制度によって、鉄道が文化的・歴史的な価値があるとの認識は広まった。現在、鉄道に関連する記念物を後世に残そう・伝えようとすることに同意する人は少なくない。
新橋―横浜間の鉄道開業から150年の節目を迎えた2022年では、鉄道に関連する駅舎や車両も、世間一般からも文化的・歴史的な価値について評価されるようになっている。それらは重要文化財に指定され、博物館などで直に見ることができる車両などもある。直に見られる車両といっても、重要文化財なので厳重に管理されていることは言うまでもない。
重要文化財とは、日本国内にある有形文化財のうち、文化庁が芸術的・学術的に高い価値があると判断したモノを指す。重要文化財に指定されると、文化財保護法の対象となる。そして、それらの保護・保存には公的に補助金が交付される。
一方、駅舎は車両とは異なり博物館に収蔵できない。そうした事情もあって、補助金があっても維持や管理に困難が伴う。
これまで重要文化財として指定された駅舎は、国内に3つある。赤レンガが美しく映える東京駅は2003年に重要文化財に指定された。赤レンガ駅舎は東京を代表する玄関でもあり、それだけに赤レンガ駅舎が重要文化財に指定されたことに異論を唱える人は少ないだろう。
もうひとつ、福岡県北九州市に所在する門司港駅は、赤レンガ駅舎よりも早い1988年に重要文化財指定された。門司港一帯は明治・大正期に貿易港としてにぎわい、多くの商社が支社・出張所を構えた。優美な駅舎は、その栄華を現在に伝える。
東京駅と門司港駅の2つは現役の駅舎として使用されているが、実はもうひとつ重要文化財に指定された駅舎がある。それが、島根県出雲市に所在する大社駅だ。大社駅は現役の駅舎として使用されていないため、正確には旧大社駅と呼ばれる。また、東京駅・門司港駅と旧大社駅は、重要文化財の駅舎3兄弟と称されることもある。