いま「短歌」の世界に“若い詠み手”と“若い読者”が集まっている。出版界において歌集は初版1000部が一般的とされ、非常に狭いジャンルとみなされてきたが、近年、20~30代の若手歌人の歌集が続々と刊行されている。書店も新たな読者層の開拓に手応えを感じ、店頭での書棚作りに工夫を凝らしている。
今年の8月以降だけを見ても、三省堂神保町本店(小川町仮店舗)では「短歌を贈る」フェア、紀伊國屋書店国分寺店では「短詩型フェア なつ空にじいろ自由研究」、くまざわ書店アリオ北砂店では「夏から秋への短歌」フェアを展開し、ポップで明るい装丁の歌集が並ぶ。前出の三省堂では近隣のオフィスの昼休み時ともなると、30~40代の客がフェアの棚で足をとめ書籍を手に取る様子が連日見られたという。文芸界の動きに詳しい書評ライターはこう語る。
「SNSの発達もあり、短い言葉で自分の内面を表現することに今の若い世代は慣れている。季語を入れる必要もなくルールの少ない短歌は、とりわけ“読み手”が“詠み手”となりやすい。日々の忘れたくない気持ちや心に残る風景を日常の言葉で素直に表現した短歌は、共感を呼んでいるのかもしれません」
SNS登場以前からの短歌の投稿先の定番といえば「新聞歌壇」。その投稿者にも若い才能が登場している。
〈ふうせんが九つとんでいきましたひきざんはいつもちょっとかなしい〉〈体いくかんでしゅうりょうしきをしていたら外からものほしざおを売る声〉──学校生活での気づきを余韻とユーモアたっぷりにひらがなで詠み、朝日新聞内「朝日歌壇」で入選したのは、小学三年生の山添聡介君。
姉で小学六年生の葵さんも〈音楽室飛まつガードで金魚気分いつもとちがう水そうの世界〉〈サンタさん気をつけて来て弟がいっぱい罠をしかけています〉と、コロナ下での日常や家族の風景を鮮やかな表現で詠み、姉弟そろって歌壇紙面を賑わせている。姉弟はこう話す。
「学校の行事や、嬉しかったこととか楽しかったことで短歌の『たね』があったときに作ります」(葵さん)
「作文よりは算数や理科のほうが好きだけど、短歌はあきないので楽しいです」(聡介さん)
この9月には母の聖子さんとの共著で3人のデビュー歌集『じゃんけんできめる』も刊行された。書籍、新聞、SNSで盛り上がりを見せている短歌の世界を、秋の夜長に楽しむのも良さそうだ。