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追悼・稲盛和夫さん 経営の神様はなぜ「伝統と革新」をつなげられたのか

伝統と革新を「つなぐ」ことに重きを置いていたという(時事通信フォト)

伝統と革新を「つなぐ」ことに重きを置いていたという(時事通信フォト)

 稀代の名経営者が逝った──。8月24日、京セラの名誉会長・稲盛和夫氏が亡くなった。90歳だった。

 稲盛氏の功績は数多い。今や世界的な有名企業である京セラや第二電電(現、KDDI)を創業。そして2010年には経営破綻した日本航空(JAL)の会長に就任し、再建を手がけた。まったく異なる業界で企業の創生・再生を成し遂げた、まさに「経営の神様」であった。

『稲盛と永守 京都発カリスマ経営の本質』(日本経済新聞出版刊)の著者で一橋大学ビジネススクール客員教授の名和高司氏が語る。

「独自に構築した経営哲学に基づいて、『正しい経営』は“一過性”ではなく“再現性”があると示したことが稲盛さんの凄さでした。企業経営において彼が重んじたことの一つが、伝統と革新を『つなぐ』こと。京セラでは当時焼き物にすぎないと認識されていたセラミックを科学的に応用し、JALではおもてなしの精神を社員たちに浸透させることで立ち直らせた。日本ならではの伝統を経営に活かせると信じ、実践することで成功を収めたのです」

 そんな卓越した経営観の原点とも言えるのが、京都だった。

 稲盛氏は鹿児島大学を卒業後に京の街に上り、1997年には京都府八幡市にある円福寺で得度。折に触れて京都への思いを語り、京都発の企業が優れている理由について雑誌『財界』(1998年)で、〈非常に独創性があって、人真似をしない〉と述べたこともあった。名和氏はこう言う。

「京都の独自性を尊重する風土とコンパクトな街並みが、伝統と革新を『つなぐ』という発想や様々なイノベーションを生み出す源泉になったと思います。そして、稲盛さんと海外の真似ばかりする現在の日本企業との差はそこにあるとも言える。日本経済が復活するために今こそ私たちは『稲盛経営』に学ぶべきです」

 かつて稲盛氏は作家・瀬戸内寂聴氏との対談(週刊ポスト2010年1月15・22日号)でこう述べていた。

〈自分が今やっている仕事に恋したら何ぼでも頑張れる。で、頑張りさえすれば必ず道は開けてきます〉

 今でも響く金言である。

※週刊ポスト2022年9月16・23日号

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