本誌・週刊ポスト前号(2022年9月9日号)では安倍晋三・元首相の「国葬」にかかる経費が、閣議決定された予算「2.5億円」では到底収まらないことを明らかにした。特に巨額の費用がかかるのが、予算に含まれない「警備費」だ。各国から多くの要人が集まるなか、数十億円を投じて行なわれる「テロ対策」とはどのようなものなのか。専門家の協力のもと、その内容を検証した。
「警視庁はすでに入念な国葬警備の準備を始めています」
そう語るのは警視庁出身の作家・濱嘉之氏だ。警視庁警備部などで勤務した経験を持つ警備専門家でもある。
警視庁はどのような犯罪を警戒し、対策していくのか。専門家への取材をもとに辿っていく。
まずは会場となる日本武道館と周辺の警備だ。
当日、式場内に入る参列者は約6400人と見込まれている。入り口にはゲート型とハンディ型合計24台の金属探知機が導入され、参列者の持ち物をチェックするが、それだけの人数となると相当な時間がかかる。
日本大学危機管理学部の河本志朗・教授は、「顔認証システム」の使用を予想する。
「警備の大原則は、会場に入れていい『人と物』を厳重に見極めることです。東京五輪では大会関係者に事前に顔写真のデータを提出させ、入場時に顔認証システムでチェックすることで不審人物が紛れ込むリスクを減らし、検査時間も短縮する大きな効果をあげた。今回は準備期間が限られるため、システム導入に必要な顔写真提出などが間に合うかがポイントです」
参列者が入場する前に、施設内に爆発物など危険物が設置されていないかを確認するのは警備の基本中の基本だが、今回はそこに懸念がある。ネックとなるのが、日本武道館では国葬3日前の9月24日土曜日までコンサートの予定が詰まっていることだ。濱氏が語る。
「コンサートがあれば、国葬直前まで一般客を装ったテロリストが出入りできる。大学の応用化学などの研究室にあるニトログリセリンであれば、栄養ドリンク程度の量で殺傷能力がある爆発を起こせます。天井の照明器具から緞帳の上げ下げの仕組み、地下の配線設備も全部チェックする必要があります。
金属探知機はもちろん、壁の内側を見るためにX線も使われるはず。危険なのは、金属探知機に引っかからない粉状の毒物を場内にハンディ扇風機などで噴霧されること。当日は、ハンディ扇風機やスプレー缶も持ち込み禁止になる可能性が高い」