そろそろ秋の空気が流れ始めてもいい頃。“読書の秋”を先取りしたいアタナにオススメする新刊4冊を紹介します。
『おっさん社会が生きづらい』
小島慶子/PHP新書/1188円
おっさんとは「独善的」で「ハラスメントや差別に無自覚」な男女。自分のおっさん性を自覚する著者が恋バナ収集家や学者など4人の男性識者と対話を重ね、5人目で上野千鶴子氏が登場する。著者のおっさん性が暴発した時の話に、上野さんが"それはおっさん性ではなく妻の反応だと思うわよ"と諭すのが印象的。他罰も自罰もなしにジェンダーフリーになる難しさを思う。
『その本は』
又吉直樹・ヨシタケシンスケ/ポプラ社/1650円
視力の衰えた王様に珍しい本の話を聞かせてほしいと命じられて旅に出る男2人。著者達と顔面相似のキャラが集めてきた話を王様に語る。本から文字が飛び出すシュールな小咄(又吉)、ソの本はファとラの本の間にあるとするイラストエッセイ(ヨシタケ)。又吉氏の中編(第7夜)の切なさの芯にはお笑い芸人のネタの才が明るく灯る。ヨシタケ氏の物語論である第12夜も圧巻。
『現代の小説2022 短篇ベストコレクション』
日本文藝家協会・編/小学館文庫/1001円
十人十色の11編。手練れの作では、少年時代に恋した叔母を回想する男の「ミソサザイ」(小池真理子)、何かを取りこぼしている気がするのにやり過ごす女性編集者の「何ひとつ間違っていない」(井上荒野)、新人の作では司法試験合格後にプロ雀士をしていた新川帆立の「接待麻雀士」が異色。著者と黒川元東京高検検事長との対談が実現したら超刺激的だと思うのですが……。
『いけない』
道尾秀介/文春文庫/715円
凝りまくり度がハンパなかったミステリーが文庫に。蝦蟇倉市を舞台に半グレが起こした非情な交通事故、文房具店から消えた死体、新興宗教の教団女性の自殺、この3話を繋ぐ計4章で構成する。厄介なのは章の終わりにある写真に、本文では寸止めされた謎のヒントが隠されていること(お手上げの自分に落胆)。9月には本作超えの第2弾も発売に。併せてお楽しみあれ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年9月15日号