「令和初の三冠王」をほぼ手中にし、日本記録の60本塁打も射程圏内に入ったヤクルト・村上宗隆。日本球界最強の打者であることは異論がないだろう。そんな村上について、他球団のスカウトはこう悔やむ。
「1位で村上を単独指名しておけば……と今でも思います。あの年のドラフトの目玉は清宮幸太郎(日本ハム)。ウチも清宮を指名しました。村上が清宮より打者として評価が低かったわけではない。逆方向に長打を打てますしね。村上、清宮、安田尚憲(ロッテ)は長距離砲として魅力だったが、大舞台での強さを含めてスター性は清宮が圧倒的だった。でも正直、村上がここまで大化けをするとは思わなかった。ヤクルトの育成手腕も称えられるべきだと思います」
2017年のドラフト。高校通算111本塁打の早稲田実業・清宮が話題を独占した。ロッテ、ヤクルト、日本ハム、巨人、楽天、阪神、ソフトバンクと高校生最多タイの7球団が1位で指名。残り5球団は社会人ナンバーワン投手の呼び声が高かったJR東日本・田嶋大樹にオリックスと西武が競合、高校3年夏の甲子園で6本塁打の個人最多記録を樹立した広陵・中村奨成に広島と中日が競合し、DeNAは立命館大の左腕・東克樹の単独指名に成功した。九州学院で高校通算52本塁打をマークしたスラッガー・村上の名前はこの時点で呼ばれなかった。
そして、清宮、田嶋、中村の抽選を外した8球団が「外れ1位」を指名し、ヤクルト、巨人、楽天が村上で競合する。当たりクジを引き当てたのがヤクルトだった。タラレバになるが、巨人、楽天に入団していたら村上の野球人生はどうなっていただろうか。スポーツ紙デスクはこう分析する。
「他球団に入っても遅かれ早かれ1軍で試合に出ていたでしょう。ただ、ここまで活躍できたかというと疑問ですね。巨人の三塁には岡本和真がいる。一塁は外国人選手の補強ポイントなので、村上が打てなくても育成のために我慢して1軍でスタメン起用し続けていたかと言うと疑問を感じます。原辰徳監督は名将ですが、長距離砲の育成に長けているイメージはない。岡本も高橋由伸前監督が腹をくくって育てた選手ですから。楽天もベテランが中心のチームで生え抜きの野手は伸び悩んでいる。結果論になりますが、巨人、楽天に入らなくてよかったのではないか」
ヤクルトで高卒2年目の2019年に143試合出場し、打率.231、36本塁打をマーク。一方でリーグワーストの184三振を喫したが、首脳陣は責めなかった。選球眼を磨いてミート能力を高めると2020年に打率.307、28本塁打をマーク。昨年は39本塁打で自身初のタイトルを獲得し、今季はさらなる進化を遂げている。