読売新聞の「人生案内」欄に掲載された「80代の夫 頻繁に自慰」という80代女性からの相談。同じ悩みを抱える妻たちから共感する声があがっている──。
全国紙の朝刊に、あまりに切実で赤裸々な性の悩みが掲載された。
〈80代半ばの夫が毎夜自慰をしています〉
〈陰のうにかさぶたができ、出血して汚れたパンツをこっそり捨てています。皮膚科に通って薬を付けていますが、治らないそうです。現役の時は真面目で社会的信用もあった人なのに……。隣の夜具で夢中で体を動かしている夫の姿。今までも何度となく見てきたのですが、この年齢になっても、と心にグサリときます〉(読売新聞4月20日付)
記事中の高齢男性の性欲に衝撃を受ける人がいる一方、妻たちからは別の反応があがっている。
「夫だけがそうなのかと悩んでいたので、この記事を読んだ時には同じような人がいるんだと心からほっとしました」
そう語るのは都内在住のA子さん(61)だ。元団体職員の夫(68)の行動に異変が起きたのは2年ほど前だった。
当事者の妻たちにとっては人には言えない悩みとなっているが、年齢を重ねた夫の性欲が暴走することは珍しいことではないという。
月に1000人の認知症患者を診ている医療法人ブレイングループ理事長で認知症専門医の長谷川嘉哉医師は、高齢男性の「異常性欲」はよく見られる症状だと言う。
「認知症や脳腫瘍で前頭葉や側頭葉に障害が生じると、タガが外れたような状態になります。それまで普通だった高齢者が周囲に見境なくセクハラ行為を働くようになることがあるのです。朝も昼も夜も妻に性交渉を求める患者さんもいらっしゃいます。性欲の量も質も人それぞれですが、度を超えている場合は『異常性欲』と判断します。
これは認知症の症状で、一般的には認知機能障害が進行した際に出現する周辺症状の一つと考えられています。しかし最近では認知機能が保たれている初期の段階で出現していることがあります」
患者本人や家族が訴えにくい症状のため、正確には実態把握がされていない。
ただ、長谷川医師によると、「何十年もなかった性交渉を毎日強要される」「廊下や風呂など公の場で自慰をしたり、陰部を介護者に見せつける」といったトラブルがよく起こっているという。「社会的認知の障害が起きて周囲を気にしなくなると、ダイレクトに行動に及んでしまいます。その結果として、認知症の周辺症状である性格変化、性格の先鋭化といった症状と同じメカニズムが働いていると考えられます。
あくまで個人的見解ですが、こうした異常性欲は教師や公務員といった長年規律を求められた人たちほど抑制されていたもののタガが外れやすい印象があります」(同前)