厳しい暑さが和らぎ、秋を感じられる日が増えてきた。読書の秋にゆっくりと読みたいおすすめの新刊4冊を紹介する。
『汝、星のごとく』
凪良ゆう/講談社/1760円
舞台は瀬戸内海の島。父の出奔で母がおかしくなる17才の暁海と、水商売を営む奔放な母に苦労する同級生の櫂。結婚するはずだったのに軌道がズレていく2人の、15年にわたる歳月を描く。遠距離恋愛アルアルの背後には、親を切り離せないという広義のヤングケアラー問題や、その裏面である個の自立や幸福追求という視点が。読み応え十分。社会派恋愛小説と呼びたくなる。
『歌集 じゃんけんできめる』
山添聖子、葵、聡介/小学館/1870円
母の聖子さん、小6の葵さん、小3の聡介くん。親子3人で出す初の歌集。シリアスな短歌を読んできたので明るい短歌もいいなと思う。姉の「弟は最初にグーを出すんだよだいたいパーを出すと勝てます」に対し、弟は「じゃんけんできめるのぼくはきらいですだいたいお姉ちゃんがかつから」と。子らと小の字で寝る母の「温石のような頭を両脇に抱えて眠る立冬の夜」も好き。
『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』
坂本貴志/講談社現代新書/1012円
人生100年時代。財務省主導の岸田政権下では消費税が上がるなんて不穏なウワサもあって庶民は気が休まらない。第1部の「本当に稼ぐべきは月10万」(ホント!?)、「持ち家推奨」(今さら!?)などの記述に落ち込むので、第2部の定年後も働く人々の話から読むといい。包丁研ぎ職人になった元住宅メーカー営業マン、看護師寮の管理人になった元自衛隊幹部。皆さん充実しています。
『みちづれの猫』
唯川恵/集英社文庫/704円
猫に慰められた人々の人生スケッチ7編。自分の生活で忙しく、実家から足が遠のいていたきょうだい3人が、ミャアの最期を見届けようと三々五々集まる「ミャアの通り道」、ふと現れた猫によって離婚後の失意の汚部屋から立ち直る「運河沿いの使わしめ」、出奔した父に対する恨みのシコリが温かな涙で溶けていく「最期の伝言」など。人生の哀歓に猫が似合う不思議を思う。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年9月22日号