「終わりよければすべてよし」ではないが、死に場所は自分で選び、理想の最期を迎えたい。そう思って「老人ホーム」への入居を決めたが、予期せぬ落とし穴にハマってしまう可能性がある。食事や医療体制、設備、スタッフの接し方など、施設によって雲泥の差が出るサービスについて、専門家と経験者たちが内部事情を明かす。【前後編の後編。前編から読む】
* * *
有料老人ホームは、日中は入居者3人に対し1人の介護者を最低限置かねばならないとの定めがある。だが“抜け穴”を活用した施設もある。介護評論家の佐藤恒伯さんが明かす。
「サ高住なら日中は1人の介護者がいればよく、夜間は緊急通報システムがあれば常駐しなくてもいいことになっている。これを利用し、関東のあるサ高住では日中は併設されたデイサービスに行かせ、夜間になると20~30人の入居者に対し介護者1人だけ、ということもある。なぜか介護資格も知識もない守衛さんを加えて“2人います”と胸を張るところもあり、何かあれば対応が遅れる可能性も否定できません」
もちろん「最高級」は介護者からの目がゆきとどく。スタッフはインカムをつけて連絡を取り合い、AI搭載の監視カメラなども活用して万全の備えを固める。入居者への対応も残念ながらギャップが大きい部分だ。「底辺」は車椅子利用者に立ったまま上から話すなど、明らかに失礼な介護者がいることが多いようだ。
「高齢者は耳が悪いかたが多いので、五感すべてを刺激して伝えるよう考えなければなりません。立ったまま話しかけると目を合わすことができず、言葉だって聞こえにくい。目線を合わせるようにしゃがんで話しかけるなんてことは介護者としては当たり前のこと」(都内の介護福祉士)
友達のようないわゆる「タメ語」、ひどいところでは赤ちゃん言葉を使うこともあるようだ。高齢者が話しかけたとき「へぇ」「なるほどぉ」と適当な相槌を打つ人など「最高級」では見られない。人間の尊厳にかかわるトイレの世話も大違いだ。
「“最高級”は食物繊維の多い食事で便秘をしないよう気遣う。しかし“底辺”は下剤か浣腸で解決しようとする。逆に下痢を誘発してお尻がただれてしまったり、痔になってしまった人も知っています」(宮城県のベテラン介護士)
「トラブルがない」と言う施設は嘘つき
平坦になりがちな老後の生活に、季節感はとても大事だ。施設ごとにイベントを企画するが、こちらも見せ方が違う。
「例えば夏祭りにしても、ある大手チェーンの施設では綿菓子や焼きそば、かき氷、水あめなど本物の屋台を所有しており、傘下の施設で順番に使っている。音楽家の演奏会や落語家を呼んで演芸会を開くところもあります。一方、お金がないところは段ボールで屋台を作ってみたり、食堂でCDをかけてみんなで歌うなどしていますね」(佐藤さん)
ただ、誰もがイベント好き、というわけではない。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは、こう話す。
「ある施設で『人と交わるのは苦手だけれど、ぽつんとひとりではいたくない』という女性がいました。施設長とスタッフが入居者の経歴や性格を考え、相性のよさそうな人の隣にさりげなく誘導していた。さすがに細やかなサービスをするものだと感心しました」