またひとり、またひとりと、仲間だったはずの登場人物が消されていく異色の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。今回は大ファンだという女優の麻木久仁子、ものまねタレントの松村邦洋、コラムニストのペリー荻野の3氏が、“粛清シーン”の人間ドラマの魅力を大いに語った。【全3回の第1回】
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麻木:『鎌倉殿』は毎週、「今度は誰の番」ってくらい多く人が“粛清”されてて、ずっと(脚本家の)三谷(幸喜)さんの手のひらで踊らされてる。
ペリー:平家を滅ぼしてからはずっと身内どうしの暗い“蹴落とし合い”で、幸せな人がひとりもいないですよね。初期にあれだけニコニコしていた北条家を崩壊させちゃう三谷さんが怖い(笑)。
松村:小学校6年生の時『草燃える』(1979年放送の同時代を描いた大河ドラマ)を見終わったあと、放心状態で体調が悪くなった。『鎌倉殿』でこの体調不良を久々に味わいましたよ。
ペリー:最初に殺された北条義時(小栗旬)の兄・宗時(片岡愛之助)は“夢と希望の人”でした。宗時を最初に殺すのは、「これは夢と希望の物語ではない」という三谷さんの宣言だったんだと思います。平家と戦うドラマじゃなくて、御家人同士が身内で殺し合うドラマなんだと。
松村:平家という対抗馬がいれば一丸となるけれど、対抗馬がいなくなったら、そこからはものまね王座決定戦ですよ(笑)。勝ち残りのトーナメント戦で、上総広常(佐藤浩市)が勝ち上がったと思ったら、梶原景時(中村獅童)にやられて、今度は梶原が殺されて……。
身内の粛清に次ぐ粛清で、源平合戦は「省略します」って感じでしたよ。
麻木:私が今のところ一番好きなのは、阿野全成(新納慎也)の粛清シーン。普段はお人好しで気が弱いダメキャラなのに、斬られそうになると嵐になって雷鳴がドーンと鳴る。スタジオ内ですけど本当に雨を降らせて、剃髪したあの綺麗な頭に雨粒がパッパッと跳ねて。懸命に経を唱えながら、首を斬られちゃう。
実衣さん(宮澤エマ)との夫婦のほんわかしたやりとりもすごく良くて。武士とは違う死に様がすごく心に残っています。
松村:僕が大好きというか、すごく腹が立ったのが、源範頼(迫田孝也)が暗殺されるシーンです。幽閉先の修善寺でゆっくりしている人を殺すなんて、ホントにけしからんですよ。範頼は温厚で頼りないイメージですけど、源平合戦でも頑張ったし、頼朝(大泉洋)のためにものすごく尽くしていました。しかも殺される時の迫田さんの芝居がとっても優しいもんだから。
ペリー:前半部分は基本的に野心のある人が粛清されていきましたが、最近は全成をはじめ、野心のない人が疑われて殺される。展開の変わり方がすごいです。
松村:ティモンディの高岸宏行君が演じた仁田忠常は、頼家に北条を討てと命じられ、板挟みになって自害するんだけど、あれも範頼と同じ“人柄死”なんですよね。
世の中って、悪い人が出世するんですよ。僕は最期は範頼みたいな死に方をしたい(笑)。
(第2回につづく)
【プロフィール】
麻木久仁子(あさぎ・くにこ)/女優 1962年生まれ、東京都出身。学習院大学在学中に芸能界デビューし、バラエティ番組のアシスタントや報道番組のキャスターとして活躍。知性派タレントとしても知られ、歴史番組にも多数出演している。
ペリー荻野(ペリー・おぎの)/コラムニスト 1962年生まれ、愛知県出身。愛知教育大学在学中にラジオパーソナリティー兼放送作家として活動を始める。大河ドラマ・時代劇に精通しており、『バトル式歴史偉人伝』(新潮社)など、著書多数。
松村邦洋(まつむら・くにひろ)/ものまねタレント 1967年生まれ、山口県出身。九州産業大学在学中に片岡鶴太郎に見出され芸能界デビュー。日本史上の人物やタレント、プロ野球選手、政治家など幅広いものまねレパートリーを持つ。
※週刊ポスト2022年9月30日号