次々に明るみに出る「五輪汚職」の闇。そのシンジケートの中心に元首相がいることをいち早く報じたノンフィクション作家・森功氏が、さらなる追及レポートを放つ。(文中敬称略)
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県知事の馳浩や北國新聞社主に会う予定が入っていた森喜朗(85)は、その日早朝7時過ぎ、東京駅から北陸新幹線グランクラスで石川県に向かった。奇しくも朝日新聞が一面に「森元首相を参考人聴取」という特ダネを載せた9月8日である。
森は8月下旬から9月初めにかけ、東京地検特捜部からホテルオークラで3回事情聴取されている。それが終わったすぐあとに元気に地元入りしているから、検察首脳はメンツをつぶされた思いではなかろうか。
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件捜査が、新たな展開を見せ始めた。大会組織委員会元理事の高橋治之(78)が、電通時代の後輩である深見和政(73)の経営するコンサルタント会社を通じて出版大手「KADOKAWA」から賄賂を受け取っていたという。
特捜部は高橋を再逮捕し、深見を受託収賄の身分なき共犯と見立て、贈賄側のKADOKAWA元専務で顧問の芳原世幸(64)と同社幹部の馬庭教二(63)とともに逮捕した。馬庭は五輪のスポンサー契約窓口「2021年室」元室長だ。
賄賂の受け皿となったコンサルタント会社名は、AOKIホールディングスのときの「コモンズ」にちなんだ「コモンズ2」だ。その株式の80%を深見が保有し、高橋もまた株主となってきた。KADOKAWAが2019年4月に協賛金2億円超で五輪のスポンサーに決まったあとの7月以降、10回に分けてコモンズ2に計約7600万円を振り込んだとされる。特捜部はそれが五輪スポンサーへの見返りだと睨んでいる。
先のAOKI、広告代理店「大広」の1400万円という3ルート合わせて1億4100万円が高橋側に渡っている。まだまだ広がりそうな五輪汚職において、やはり関心事は森の動向だ。
裏工作のキーパーソン
AOKIと森の接点はこれまで書いてきたが、今度のKADOKAWAルートにも森が登場する。順を追って見ていくと、五輪の開催決定が2013年9月だ。そこから出版枠のスポンサーになろうと、KADOKAWAが手を挙げる。当初はそこにもう1社「講談社」が加わっていた。報道では2社がいっしょにスポンサーになるべく、働きかけたように書いているところもある。が、五輪スポンサーは1業種1社とされ、当初、2社は競合関係にあった。捜査関係者が説明する。
「2社は別々に出版物などの計画を考え、2015年中にはそれを申請書としてまとめ、電通を通じて五輪の組織委員会に提出しています。ところが、2016年に入り、KADOKAWA側から講談社側に『いっしょにやりませんか』という提案があった。互いのトップ同士の話です。KADOKAWAの角川歴彦会長が講談社の野間省伸社長に打診したとされています」