現在、入院生活を余儀なくされている読売新聞グループ本社主筆、渡辺恒雄氏(96)。ドン不在によって、政界やメディアにどういった影響があるのだろうか──。【前後編の後編。前編から読む】
渡辺氏の不在は、政界に影響をもたらしている。全国紙政治部記者が語る。
「駆け出しの政治記者時代から大物政治家の大野伴睦に食い込み、渡辺さんが大野派の閣僚名簿を仕切っていたほどです。2007年の福田康夫政権時代は盟友・中曽根康弘と自民党と民主党の『大連立構想』を画策し、名実ともに組閣や政策決定に影響を与えるキングメーカーとなった。
そうした事情もあって、与党政治家は重要な政策決定の前に渡辺さんのもとを訪れる“渡辺氏詣で”をしている。安定的な政権運営のためには渡辺さんとの良好な関係が必要不可欠です。いまは国会閉会中ですが、渡辺さんが今後も不在となると政界は混迷するでしょう」
とりわけ渡辺氏と安倍晋三元首相は蜜月だった。第二次安倍政権では度々会食を重ね、巨人軍の試合観戦やパーティなどで頻繁に面会した。
2017年の憲法記念日(5月3日)には、憲法改正のロードマップを示す安倍氏の単独インタビューが読売新聞に掲載された。
のちに国会で改憲案の説明を求められた安倍氏は、「読売新聞に相当詳しく書いてあるからぜひ熟読していただきたい」と強弁したほどだった。ノンフィクション作家の森功氏が語る。
「政権側は政策推進のためにしばしばメディアを使い、時にキャンペーンを張ってもらう。世論のコントロールを期待して渡辺氏詣でをするわけですが、渡辺氏もまた政治とメディアを一体化することに遠慮がない。権力の監視という新聞本来の役割に逆行する行為なのに、渡辺氏はそんな批判をものともせず、政治家を利用し、取り込むことでメディアのメインストリームに居座った。両者は絶妙のバランスで成り立っている」
その均衡がいま、崩れかねない状況にある。