100歳以上の高齢者の数は毎年増え続け、日本だけでも約10万人にまで膨れ上がっている。人生100年時代は決して他人事ではない。そんな中、現役国内最高齢ピアニストとして知られる室井摩耶子さん(101歳)の新著『マヤコ一〇一歳 元気な心とからだを保つコツ』が話題を集めている。室井さんが“生涯の伴侶”となる、ピアノとの出会いを振り返る。
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普段からあまり、年齢のことを考えたことがありません。「100歳を過ぎましたね。おめでとうございます」とお祝いの言葉をもらっても、「それ誰のこと?」なんて憎まれ口を叩くわたしですが、このところ、すっかり年寄りだと烙印を押されて困っています。
年寄りって、寄ってたかっていたわられる存在ではないんですけどね。年を重ねて、音楽のことがこれまで以上に深くわかってきた反面、だからといって全部はわかっていないんだなあ。
わたしと音楽との関係は相変わらず「すったもんだ」と揉みあいを続けつつ、日々の新しい発見を喜んでいる境地です。音楽に限らず、ひとつのことに打ち込んだ方や、何かお好きなことをお持ちの方は、わたしの気持ち、わかってくださるかもしれませんね。
たとえば山登り。同じ山でも、登る日によって表情が違います。コンディションも天候も異なります。今日の山の表情と明日の山の表情はまったく違うのです。それを味わいたくて登るんじゃありません?
料理もそうです。毎日家族のために作る料理も、一日とて同じ味にはなりません。そこに面白さを見出した方は、きっと料理が好きになるのでしょう。お掃除だってそう。街で「掃除のプロ」をお見かけすることがありますが、その世界ではまったく太刀打ちできません。
わたしが幸運なのは、早くに「好き」を見つけたこと。6歳でピアノに出会っていなかったらどうなっていたかしら。「お転婆」と散々言われて育ったわたしのことだから、やっぱり飛び回っていたかしら。
昭和の時代が幕を開けたころ、父がピアノを買い与えてくれました。昭和天皇の即位の御大典を記念した特別モデルで、正面に鳳凰の飾りが付いたアップライトのピアノでした。
黒いふたを開けて、白と黒の部分をこわごわ、人差し指で押してみたら、ポーンという低い音が部屋中に響きました。あまりにも驚いて「ひゃっ!」と飛び上がってしまったくらいです。
6歳というのには、理由があります。昔は「6歳の6月6日に芸事を始めるといい」という慣わしがありました。お琴も候補に挙がっていたようですが、「昭和にもなって、いまさらお琴でもないだろう。御大典記念モデルも発売されるというからちょうどいい。ピアノを習わせよう」と父が思いついたようです。
父に感謝しなければなりませんね。このときにピアノがわが家にやってきたことで、一生涯付き合う本当の「伴侶」を、わたしは得てしまったのですから。