ライフ

ダークな犯罪小説とは一線を画す温かさ…辻村深月『嘘つきジェンガ』など注目の新刊

 秋の夜長に読書をして、心を豊かにしてするのはどうでしょうか。この季節に読みたい注目の新刊4冊を紹介します。

詐欺する側にもされる側にもある切実さ

な、なに、この面白さは!詐欺する側にもされる側にもある切実さ

『噓つきジェンガ』
辻村深月/文藝春秋/1815円

 ジェンガとはタワー状に積み重ねる直方体の遊具。題名は嘘の積み重ねほどの意か。図らずもロマンス詐欺の一味になってしまう地方出身の大学生、次男の受験で夫に内緒の100万円を仲介者に払う主婦、カリスマ漫画家になりすましてファンと交流する無職のアラサー。詐欺が発覚してからの展開の濃密さに引き込まれる。ダークな犯罪小説とは一線を画す温かさ。超絶面白い。

恐怖と不安で医師も金縛りに。
それでも医療の最前線に立った医師達の矜持

恐怖と不安で医師も金縛りに。 それでも医療の最前線に立った医師達の矜持

『レッドゾーン』
夏川草介/小学館/1650円

 コロナ禍の最中うちの管理人さんが悲しげに言った。“私は家に帰ると2階で独りで食事させられるんです”。第1話の主人公、内科医の日進が同じ目に遭っている。信濃山病院を舞台に、コロナ患者が急速に増え、マスクや消毒液も不足した2020年の冬から春を記録する。海外旅行帰りを非難された女性の孤独に寄り添う外科医など3話。記録文学になるこの創作、連作してほしい。

長生きするほど、悩みや悲しみが重層化。
人生終末期のお洒落は「元気を装う」こと

長生きするほど、悩みや悲しみが重層化。 人生終末期のお洒落は「元気を装う」こと

『90歳になっても、楽しく生きる』
樋口恵子/大和書房/1540円

 この5月で90歳になった樋口さん。人生100年時代は難しい。友も先に逝き、お手本もなかなかない。買った生揚げが消え、干からびたそれを本棚で発見するという物忘れ珍事も。しかし「都合のいいバアサンにはなってやらないぞ」と意気軒昂。頼りになるのは女同士のネットワーク。お洒落もちゃんとして自己表現する。自著のアンソロジーみたいな高齢者の生き方のススメだ

芥川賞以前、すばる文学賞受賞のデビュー作。
とっぴな設定を普通に読ませる不思議な魅力

芥川賞以前、すばる文学賞受賞のデビュー作。 とっぴな設定を普通に読ませる不思議な魅力

『犬のかたちをしているもの』
高瀬隼子/集英社文庫/550円

 郁也と薫はつきあって3年。郁也の同級生ミナシロさんが言う。“郁也の子を妊娠。もらってくれませんか”。まず郁也と彼女が結婚、出生届の後すぐ離婚、郁也は子連れで薫と再婚するという手順だ。卵巣手術を経てセックスを忌避する気分が強かった薫は……。解説は奥泉光氏。経血のシーンが何度も象徴的に出てくるが、これには男性は触りたくないみたいだ(当たり前か)。

文/温水ゆかり

※女性セブン2022年9月29日・10月6日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン