2014年7月1日からフリーとして活動をはじめ、今年で8年になる声優・細谷佳正(40)は「“人間はやりたいことだけをやって本当に生きていけるのか?”ということを、自分の人生を使って実験しています(笑)」と語った。徹底的に自分と向き合い、出した結論とは──。【前後編の後編。前編から読む】
自分の人生の主導権を握るということは、上手くいかなくなった時の責任も全て自分にあるが、不安などはないのだろうか。
「ないですね。今も、インタビュアーのかたがまさに質問されましたけど『フリーでいるよりも、会社に所属していたほうが会社が責任を取ってくれるから安心なんじゃないの?』という意見。個人で主導権を握るより、会社に主導権があったほうが、何かあった時に個人ではなく、会社が責任を取ってくれるから安心する、という考えもあると思います。でも、僕は、会社が自分の人生に責任をとれるわけはないだろうな、と考えているからフリーをやってるんだと思います。『ルールに従っていれば安心』という感覚に違和感があるからです。
そして『会社が責任を取る』とはどういう事だろう? と思うのです。極端な例えになるけれど、失われたものの中には二度と取り戻せないものもあります。『ルール』を遵守した結果、何かを失ったとします。『あなたはルールを守っていたから責任は会社がとります』といって、全てが元通りになるのか? というと、そうではない。会社が責任を取ったとしても『元通りにはならない尊いもの』もあるからです。それなら、自分で『自分を守る』という行動を、自分の意思で決められたほうが、僕は安心できるし、納得できると思いました。
……すごく脅かしてきませんか? 社会って。
例えば、転職を上司に伝えたら『ウチの会社で結果出せないのに、外でオマエがうまくいくわけないだろう』とか。僕の場合でいえば『みんな従ってるのにキミだけ従ってないから評判悪いよ』とか。わざわざ聞いてもない事を言って頂かなくても大丈夫ですよ、と思いませんか? 責任取るのはアナタではないでしょう? って、そんなのわかりきってるじゃないかと。それにもし『失敗した』と自分で感じたとしても、それで全てが終わることはないと思うんです。
例えばAの現場での僕の評価がめちゃくちゃ低かったとしても、Bの現場で評価を上げたらいいだけです。全然考え方も環境も合わない、自分の評価も低いAの現場よりも、自分を評価してくれるBの現場を人は大切にするし、宣伝もします。Bの現場の作品の評価が大きくなれば、結果Aの現場は利益として負けると思う。Bの作品の大きな評価は、自分の実績になります。そして実績に、他人は安心するし、評価の対象として考えます。
僕は1982年生まれで、世代の近いかたはもしかしたら感じているかたもいらっしゃるかもしれないですが、学校教育の中で、権威主義的な考え方を刷り込まれてきたと思っています。『目上の人の言うことには従わなければいけない』とか、『自信をもつのは危ういことだから、謙虚でいることがよい』とか。集団行動についても『空気を読める人が優秀』という暗黙のマナーのようなものが、自分の意見を相手に伝えることに恐れを抱かせることをしてきたと思います。もう『学校』というものから遥か昔に卒業してみて今更ながら感じるのは、『社会に出たら、学校で教わったことは全部逆じゃないか』ということです。不本意なことに無理やり従う必要は決してないし、自信は持ったほうがいい。謙虚さはそれを伝える人間を間違えると、舐められてしまう」